2008年1月7日
米国の製造業指数が急落。失業率は5%に急増し、ますますR-word(リセッション)が現実味を帯びてくるなかで、商品価格は史上最高値更新。どう見ても理屈に合わない。何故?というのが素朴な疑問であろう。そのあたりの事情は、以下の数字が雄弁に物語る。
世界の市場規模(日経調べ)―
金450兆円、債券5500兆円、株式7200兆円、そして店頭デリバティブの想定元本の合計4京9300兆円。
これら世界の金融市場の主流マネーが金に本格的に流入しつつある。その運河の役割を果たしているのが、インデックスとかETFの類の金の金融化商品。今朝の日経朝刊国際面でも、世界の商品連動型投資残高は昨年末で14兆円(年間3兆円増)という記事が出ているが、まだまだ始まったばかりだね。この現象が金の世界では、Weight of Money(おカネの重み)と呼ばれる。
本欄でこの言葉に最初に言及したのが2年前の正月(2006年1月5日)であった。その当時は、筆者も、この議論には懐疑的であった。正直、金ETF残高が800トンにも達するような商品に化けるとは想像していなかった。
この、日経の見出し風に言えば、"マネー変流"を引き起こした最大の要因は、やはりサブプライムであろう。しかも、金市場に流入するマネーは単に投機とか避難目的だけではない。ポートフォリオ分散化の流れのなかで、長期投資目的が加速度的に増加している。単に投機マネーだけであれば、金価格上昇が8年も続くはずもない。800ドルというような高値圏でも、急いで利食いするような動きがさほど見られなかった。これも、筆者の想像を超えていた。ちなみに、貴金属店の店頭に売り戻し客が殺到する現象は日本のみである。他国は、新規買いが売り戻しを大幅に上回る。なにやら、日本人投資家の買いが薄い兜町と似ているような...。これって、日本民族のDNAなのだろうか。
そして今年新年に入り、いきなり現物価格、史上最高値更新。資源高などに起因する所得再分配現象の恩恵を受けた中東、ロシア、中国、インドは、文化的に金選好度が高い国々ばかりである。ペルシャ湾岸=ガルフ諸国のイニシャルをとって、今やGRICsの時代と筆者は呼んでいる...。しかも、政治的、宗教的理由で、米ドル経済圏の傘下に下ることを潔しとしない。ドルル離れしたGRICsマネーの一部が、無国籍通貨=金に向かうのもごく自然な流れである。
金に関しては常に懐疑的な書き方をしてきた米国ビジネスウイーク誌までが、新年号の"Where to Invest"(次の投資先)という特集記事で、モルガンスタンレーのチーフ インベストメント ストラテジスト、デビッド ダースト氏の"インフレ率が5-7%になれば金価格が2250ドルになっても驚かない"というコメントを紹介。"Don't get burned if prices ignite"=物価上昇に火がついても火傷するな、と書いている。
なお、この号で、カルパースの姉妹ファンド カルスターズ(カリフォルニア州教職員共済年金基金、運用資産18兆円)のCIOクリス エイルマン氏が面白い事を言っている。
"I want to be short in everything that China and India are long in, but I want to be long in everything that China and India are short of"=中国とインドがロング(充分持っている)ものはショート(売り持ち)して、彼らがショート(足りないもの)をロング(買い持ち)する。
こんな簡単な単語を並べるだけで、これだけ語れるという英会話のお手本みたいな文でしょう。
ちなみに、彼が両国とも足りない例として挙げたもの。クリーン ウオーターとクリーン エアーである。金融の世界から見れば、充分ロングなものは米ドル。ショートなものはゴールド。欧米諸国の対外準備資産の中で金の占める割合が平均40%に対し、アジアは1%前後という現実。
さて、今日の日経夕刊にて、WGC単独主催セミナーの一般告知をします。関東より北の版では東京会場、名古屋より南の版では大阪会場の案内が出ます。今回、援軍を頼んだ志田富雄日経編集委員と池崎キャスターと当初打ち合わせした時点では、こんなタイミングの開催になろうとは思いませんでした。志田さんには穀物、原油そして金など、商品全体の価格上昇のカラクリについて、庶民に身近なモノの値上げ現象を引き合いにやさしく解説してもらいます。彼は夕刊の初心者向けニュース解説"ニッキーさん"担当で慣れていますから。ちなみに彼の顔写真を諸般の事情で掲載できないのが残念ですが、"編集委員"とは思えないサーファーのナイスガイです。ルックスを見たい方は、日経ブロードバンドニュースにて週代わりで池崎キャスターと朝刊解説も担当していますから覗いてみてください。