豊島逸夫の手帖

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バフェットさんは本当に救いの神?

2008年2月13日

昨晩のNY株式市場は、"投資の神様"ウオーレン バフェット氏のモノライン救済策提案に揺れた。投資家は総じて歓迎ムードなのだが、プロの評価は厳しい。

同氏のコメントをまとめると、2兆4千億ドルに達するモノライン各社保証分のなかで8千億ドル相当のmuni(地方債)部分を再保証しようというオファーだ。"そんな、いいとこどりして、ずるい"というのが、当のモノライン各社の反応。1社は即拒否。他社も冷やかな反応。

というのは、地方債はシングルA以上の格付けを持ち、一番安全な部分。しかも、そこを救済するからと持ちかけた案を良く読むと、モノライン各社が受け取っている保証料の5割増しのプレミアムを払えば、同氏が肩代わりするよ という提案なのだ。さすが、したたかだね。

モノライン問題で一番やばいサブプライム関連CDOに関しては、同氏もはっきり"disaster"(あまりに酷く手のつけようもない)と突き放した姿勢。格付け会社が、近々いよいよモノラインの格下げを発表かと言われているが、その影響があまりに大きいため、政治的圧力がかかり、当面棚上げされているのが実態でもある。一触即発。そこで、昨晩のモノライン各社の株価は軒並み15%前後下落する結果となった。

まぁ、筆者から見ても、今回のバフェットさんは、ちょっとかっこよすぎるんじゃないの。

さて、原油価格がやや動意づいてきた。きっかけは、ヴェネズエラ。OPEC総会ではイラン大統領と抱き合って見せるなど、相変わらずのお騒がせチャベス大統領が吠えた。ことは昨年エクソンモービルが同大統領の国有化政策を嫌気し、同国の原油開発プロジェクトから撤退したことに始まる。その時の資金決着をつけるために、エクソン社がヴェネズエラ国有原油公社PDVSAの海外資産(英、蘭)凍結の裁判所命令を取り付けた。同大統領はエクソン社を米国政府の手先とみなし、"おい、Mr.Bush, Mr.Danger!ただの一滴のアブラだって、おまえのところにやるものか。そっちか経済戦争を仕掛けるなら、原油価格は200ドルに暴騰するぜ。"と吠える、吠える。

とはいえ、チャベスがそんなこと出来るわけないよ、というのが冷静な見方。なにせ、同国の原油輸出量の半分が米国向け。その原油輸出自体が、同国総輸出の9割を占めるのだから。チャベスの社会主義政権維持のためには欠かせないドル箱なのだ。

それにしても、同国内では、原油価格が政府補助で著しく低く抑えられている。ところが、国内では慢性的な原油供給不足。なぜかといえば、隣国のコロンビアに密輸すればなんと30倍で売れるのだから。結果、国内には原油在庫がほとんど残らないという悲劇。これは、原油に限らず、農産物にも同様の現象が起こっているのだ。

さて、金価格は905ドルまで急落。ドル高、中国やインドの経済成長減速の環境下で、なぜ金価格が上がるのか。リカちゃん(リカプリング)派として本欄でも疑問を呈してきた立場から見れば、当然の調整売りだと思う。とくに中東インドへの金中継基地ドバイから聞こえてくる話は、現物輸入の激減の話題ばかり。まだ、900ドルまで買い上がる気配は感じられない。急落過程になると、例の"IMF金売却"ストーリーなども、投機筋には格好の売り材料と化す。

ただし、インド中国経済成長減速といっても8-9%は維持できるのだから、リカちゃん効果による下げもそれほど深くはない。今夜ロンドンで発表される最新需給四季報に注目したい。昨日(12日)日経夕刊"明日の勘所"に要点がまとめられているよ。

そして、プラチナ。需給構造が非常にシンプルで生産が南アに遍在し、そこで電力不足という、これまた非常に分りやすい相場だ。市場規模が金の1/20ゆえ、ボラティリティー(価格変動性)もハンパではない。我々プロには、非常に面白い相場商品。先物をやったら病みつきになる人の気持ちも分かる。競馬やパチンコなどよりは、はるかにインテリジェントなベット(賭け)だし。筆者も元プラチナディーラーとして、アドレナリンが出てくる。しかし、素人さんがうっかり手を出すと、今はいいが、サプライショックによる上げというのが曲者で、市場のセンチメントが急変したときに売り抜けられるか否かが心配。おそらく先物市場はストップ安で売るに売れない。劇場の中で"火事だぁ"というので一斉に出口に殺到する"劇場のシンドローム"が出やすい状況にもなる。あくまで余裕資金で、この賭場で遊んで行っておくんなさいまし。

2008年