豊島逸夫の手帖

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selling climax セリングクライマックスは?

2008年9月10日

原油が101ドルへ急落。金が20ドル強下げて780ドル割れ。プラチナはもっときつく100ドル以上下げて1200ドル台。高値の半値近くになった。世界的景気減速に影響されるものから順に売られている感じ。

金は750ドルまで売られなかったのが不思議だが、昨日は案の定、リーマンの信用不安再燃で前日のNY株上昇の牽引役が総崩れ。リーマンの一日の下げ幅45%は、なんともきつい。AIGまで引っ張られて19%下げ。この金融不安、株下落が(マネーとしての)金の、さらなる下落にブレーキをかけた感じ。

商品全体には未だ下げ止まりの兆候は見られないが、あと1-2回大きく売られて、売りのクライマックスかな。売りの波も第四コーナーに来た感じはある。世界景気減速はかなり織り込みつつある。

NY金先物買い残も300トンを割ったから地合いは軽くなってきたし、金ETF残高も783トンまで減少してきたし。ただ、商品市場だけではなくて、株など他の市場のどこへ行っても"投資家はどこへ消えたの?"という投資マネーハンティング。かくれんぼに譬えれば"鬼さん"探し。皆、工夫して、あちこちに隠れているけど、そういつまでも狭い穴の中に隠れて居続けられるものでもないよ。

さて、今朝早朝の米国CNBCクロベル(closing bell)で、神様グリーンスパン様の有難い講話をたっぷり拝聴した。いや、おちょくっているわけではないよ。マジにこの80歳は凄いと思うし、尊敬している。(ちなみに例のハードカバーの執筆本のペーパーバック バージョンが今日NYで発売とのこと。エピローグだけ書き改めたということで、その内容が話題の中心)。

その発言骨子をしっかりメモしておいた。

―ファニー、フレディー救済について。このGSE2機関は、損失が出れば政府(納税者)による救済を受け、利益が出れば自分たちのものになる(socialize losses but privatize gains)。こんな企業形態が自由競争経済に存在すべきではない。十分な自己資本を持つ民間金融機関が、自前で住宅ローンの保証をすべき。"暗黙の政府保証"などというambiguity (あいまいさ)が良くない。これではnod and wink、ちょっと頷きながらウインクしてみせて、よろしくね、と思わせぶりことを言っているようなものだ。マーケットの不信感は消えない。

―金本位制を離脱してFiat money信用通貨制度に移行してから、中央銀行が通貨供給量を調節するシステムになったのだから、自由主義経済といえども今回のGSE2社の危機に当たって公的資金投入はやむを得ない。今回は1世紀に一度起こるかどうかのレベルの危機的状況なので、公的救済が必要なのである。このような確率の危機は自由主義経済モデルには想定外のイベントなので例外的なのだ。

―問題の根源は、やはり不動産市場の低迷。立ち直りはいつかと聞かれれば、年末から来年初にかけてと答える。すでに住宅供給は相当減少しているので、早晩、業界在庫も軽くなってくるのではないか。

―今後も銀行破たんは続くか、については、S&L危機の後にほとんど銀行倒産が無かったことが異常だったのだ。まだ続くと言わざるを得ない。

―米国リセッションは50%以上の確率で進行する。(これまでは50-50と言っていた。筆者注)

―インフレ懸念については、金融危機によりインフレトレンドが見えにくくなってきたが、冷戦の終焉後のディスインフレ傾向が終わりインフレへ流れが変わった(turnした)。現在の金融不安が解消されるとインフレトレンドがより顕著になろう。

ほんと、この人の洞察力には脱帽。なお、聞き手は、筆者がセミナーでよく引用する"グリーンスパン講演料は金で"のエピソードを、以前、番組内で披露したマリアバルチロモ姐さんでした。いつもは高飛車の彼女も、神様の前ではsir づけになるのが微笑ましい。

なお、救済される業界とされない業界の話が今日のNYタイムズに載っている。史上最大の政府救済劇を見せつけられれば 当然、なんで金融業界だけが、という議論にはなるよね。

2008年