豊島逸夫の手帖

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ババ引いたのは誰?

2008年10月21日

日本時間今夜のNYは、リーマンの債務不履行に対する支払い保証を請け負ったCDS35兆円相当の決済日を迎える。すでにこのデリバティブの市場価値は額面100に対して9にまで暴落している。支払いを保証したサイドのヘッジファンドとか投資家は、残りの91に対して支払いの債務を負うが、まず履行は出来まい。ここで初めて、どこの誰が幾らくらいの支払い保証を抱え込んでいるのか、あるいは支払保証をしてもらっていたのか、その実態の具体的内容が明かされる。実際に名前が出るのはゴールドマンサックスとかドイツ銀とかの大手だが、彼らは顧客の代理である。実際の顧客はヘッジファンドとか機関投資家であろう。

このように、これからマーケットで値がついて決済日を迎えて、今回の金融危機の被害の実態が徐々に明かされてゆく。そこでババを引いたヘッジファンドが、ここまで株式や金の売り処分に走っていた。"ヘッジファンドの売り"という漠然とした表現で噂として流れていた部分である。その"噂"が具体的な"ニュース"になる。ここでマーケットは、おそらく"噂"で売ったものを、"ニュース"で買うというような反応になるのではないか。

時あたかも、金融危機から世界的景気後退へ市場のテーマが移行中である。金融危機から派生した運用資産現金化の動きは一巡しつつあるだろう。株も商品も、ぼちぼち底値圏形成モードに入っている感がある。

ただし、サブプライム汚染度は相対的に軽かった新興国が、景気後退による荒波にこれから晒される。昨日の中国経済成長率9%下落の報が象徴的であろう。ロシアも心配だ。ユーロ安ドル高の流れも、結構しぶとい。

さて、第二次ブレトンウッズ構想などと、金融サミットの話も出てきた。しかし、歴史が雄弁に語るところは、IMFにしてもSDRにしても各国の協調体制を基礎に構築されたシステムが長く機能した試しはない。"性善説"は脆いものだ。人間の叡智を信じることは美しいが、現行の自由主義経済体制はアダムスミスの"見えざる手=価格"による調整という、"人間の欲"を前提にした制度である。価格が安ければ買い、高ければ売るという欲望と、価格が高くても、世界の為に、皆のために、私は買うという慈善精神と、どちらが勝るかな...。後者の役割を政府が請け負っているというのが、公的救済制度だけれどね。その公的救済資金は、増税か通貨増発かで賄われることになる。魔法の杖はない。

2008年