豊島逸夫の手帖

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金945ドル 新高値更新

2008年2月21日

金価格は、18日の900ドル台から一気に945ドルまで急騰。890-920ドルの調整レンジを上放れた。

プラチナは昨日一時80ドルも急落したが、NYの引けでは16ドル安まで戻した。やや息切れだが、引き続き供給不安で下げづらい環境だ。ショート(空売り)など怖くて出来ない。現物を持たない売りは、直ぐに足元をみられてスクイ―ズされ袋だたきにあう。かくいう筆者もボコボコにされた経験がある。 だから売り手が少ない。それにしてもボラティリティーがハンパではない。コンプライアンスの厳しい大手投資銀行などは、とてもポジション取りが許される相場ではない。プラチナを売買する個人投資家は、出口戦略を考えておこう。とくに先物はストップ安が続くような状況に一変すると、劇場のシンドローム(火事だと劇場内の観客が一斉に非常口に殺到する現象)に見舞われる。とにかく余り調子に乗らないようにね。経験者からの忠告。

さて、金価格急騰要因は、例によって原油高=インフレ懸念にドル安(対ユーロ1.47台)、そして拡大するモノライン危機から発する信用不安のなかで質への逃避マネー流入。とくにストラクチャーもの(仕組み債)が嫌われ、単なるバニラ味のハイグレード(高品質)ものへマネーが集中する傾向だ。ストロベリーとかチョコレートフレーバーとか余計なトッピングは不人気。材料そのもののシンプルな味付けで原産国の分かる商品がよろしい。まぁ、金の世界に限っては、今や世界一の金生産国となった中国製の金でも、"金は金"に変わりはないけどね。

ドル円は、本欄で一貫して主張していることだが、世界的ドル離れからは距離を置く流れ。108円台なので円建て金価格はさらに上がりやすい。

昨晩のNY株式市場は、午前中はCPI(米消費者物価)が事前の予想を上回る上昇の報で"利下げ遠のく"観測に揺れ、午後はFOMC議事録公開で"やっぱり追加利下げ"観測に揺れた。午前中100ドルを超す下げの後、終わってみればダウ90ドル高。

事実関係をまとめておく。

1月の米消費者物価は年率4.1%(12月)から4.3%(1月)に上昇。事前予測は4.2%だった。コアは同2.4%から2.5%へ。エネルギー価格が緩んだが、食料品価格上昇の影響が勝った。

FOMC議事録公開については、じつは緊急理事会が1回だけではなく極秘にもう1回開催されていたことが判明。都合3回。最新の1月31日の議事内容は以下のとおり。
―75bpプラス50bpの追加利下げをしても、downside risk(景気の下振れリスク)は残る。
―消費、住宅、エネルギー価格、設備投資に懸念あり。例外は輸出部門。
―経済成長に回復の兆しあれば、利下げから利上げへの転換論も。

以上の内容を咀嚼するのに、マーケットは40分かかった。タイムラグの後、やっと反応。1番目の項目に関して"これで次回FOMCでの追加利下げの可能性がますます高まった"との解釈でまとまり、めでたくNY株は反発した次第。しかし、長期的に最も重要な項目は3番目。原油100ドル以上となると、年の後半は、仮にサブプライムの材料が陳腐化したとすれば、インフレ予防の利上げに転換する可能性が高まったわけだから。ゆえに、セミナーでは繰り返し述べてきたことだが、金価格も年後半に下がる可能性あり。

なお、本日の日経朝刊記事"国際商品 供給懸念で上昇"の記事中の筆者のコメント"需要減少が将来の話であるのに対し、供給に関する材料は即効性がある"について、補足すれば、需要減少はボディーブローみたいに効くということでもあるよ。それにしても、この記事の商品別上昇一覧リスト見るに、"コモディティー シアター"の早春顔見世興行みたいにズラリと並んだね。金価格は3週間ぶりの高値とあるが、この記事執筆後に史上最高値突破となったわけ。報道が追いつかないほどのスピード。

話しはFRBに戻って、2008年米経済見通しが下記のとおり下方修正された。

 

実質経済成長率

1.3-2.0%

1.8-2.5%

失業率

5.2-5.3%

4.8-4.9%

コアインフレ率

2.0-2.2%

1.7-1.9%


最後に今日の注目数字と一言。
―オバマ勝利確率71%(ヒラリーは28%)
―原油100ドルは、F1で言えばピットストップ。

2008年