2025年8月28日
昨日、本欄で詳述した如く、トランプ大統領の強引なFRB乗っ取り作戦が進行する中で、パウエルFRB議長の存在がレームダック化しそうな様相である。
中央銀行の独立性をなりふり構わず侵す如き一連の行動は、新興国の独裁者並みの取り口と言われても仕方あるまい。
この危機的展開に接しているNY市場で今最大の話題は各市場の反応が薄いことだ。
今週の週明け25日のアジア時間帯に、クックFRB理事解任の報道が流れた時は時間外での米株売り、ドル売り、米10年債売りの所謂「米国売り」らしき現象が見られたが、結局短命に終わった。
早速ウォールストリートジャーナル紙が「トランプ氏のクック氏解任にマーケットは何故、関心が薄いのか」と題する記事を載せている。
同紙が理由として挙げたのは5つ。
1.既に織り込み済み。
2.トランプ派の候補者が過半数を占めるのは時間の問題。
3.法廷闘争に持ち込まれると先が読めない。
4.クック理事に注目が集中すると、パウエル議長への圧力は弱まる。
5.次期候補者として名前が挙がる人物は、ハト派にせよタカ派にせよ、それなりに実績があり、全くの部外者ではない。利下げにしてもトランプ氏がごり押しせずとも、そもそもパウエル氏も次の一手として異論はなかった。
それにしても金融政策の有事とも言える事態に金価格こそ強く反応しそうなものだが、こちらもイマイチの状況だ。
25日のアジア時間帯に時間外のNY先物金価格(12月限)が40ドルほど上げて3400ドル台を突破したものの、その後は3440ドル前後で推移している。やはり3500ドルの上値抵抗線が強い。今年に入って4回トライしたが、いずれも跳ね返されているのだ。この状況に買い方も焦り始めて、利益確定売りが出やすい市場環境になっている。投機マネーが値動きの軽い上昇基調のプラチナに移る傾向も顕著だ。
コモディティーの側面から金市場の現状を精査すれば、今年に入っての超急ピッチの価格上昇に、金に対する文化的選好度が高い中国やインドでも金現物需要が萎え始めている。金ETFの残高もさすがに伸び悩む傾向が見られる。
今後、需給面で注目されるのはリサイクルの売りだ。
金は腐食しないので、有史以来採掘された金の総量(地上在庫と呼ばれる)が21万6265トンも地球上の何処かに残り、その一部がリサイクルとして還流してくる。年間の金生産量が3600トンほどゆえ、今後二次的供給源とされるリサイクルの売りがジワリ効くは必至だ。世界的に金買取店が雨後の筍の如く急増して、リサイクルのインフラが整備されてきたことも無視できない。リサイクルの売りが増えるタイミングは、金価格が当面上がり切ったとの見方が増える時。それまではもっと上がったら売ろうと自制してきた金保有者たちが一転、我先に売りに殺到する。投資家の欲がなせる業だ。その様が満席の劇場で観衆が非常口に殺到する様を連想させるので「劇場のシンドローム」とも言われる。
更にロシアの金大量売却の可能性もちらつく。
今回の経済制裁に当たり、プーチン大統領の大きな誤算は、ロシア中銀保有の外貨準備としての金まで海外での売却の道を絶たれたことだ。2300トンを超す金塊がモスクワの金庫に眠っている。貴重な外貨獲得の手段ゆえ、宝の持ち腐れの如き有様となった。
とは言え今後、仮にウクライナ交渉の過程で経済制裁が緩和されると、一気にロシアが公的準備金の売却に走る可能性がある。過去にも原油価格が上昇して国庫が潤沢になると公的金保有増強に動き、ロシア経済が危機的状況になると、金売却で凌ぐ傾向があった。なお、買い手として中国の名前も挙がるが、その場合は人民元建て決済を強いられよう。加えて中国は公的金準備を増やす過程にあるので、ロンドン金市場で売却される可能性は薄くなる。
総じて、NY市場の金関係者たちと話していると、一時の金最高値連続更新時の熱気が冷め、ライバル視されがちな仮想通貨(デジタルゴールド)の話題に押され気味の本音が透ける。