2025年6月6日
昨晩は、まず中国側の発表で習近平氏とトランプ氏が電話で会議中と報道。米国側も認め、市場では重要案件として材料視された。
レアアースという切り札を握り、既にレアアース不足による自動車生産ストップの事例も出始めた折ゆえ、中国側のペースと見られた。
そこで貴金属市場では中国需要で育つ銀とプラチナが買われ、米中緊張エスカレートで育つゴールドは売られた。折から上昇中だったNY金は暫時頭を打たれ、銀とプラチナは続騰した。それぞれのメタルの特徴が顕在化して、教科書に使えそうな事例になっている。
とは言え、中期的には金は下値を固めつつ、価格水準を切り上げて行く展開に対し、銀とプラチナは市場規模が極めて小さく、ちょっとしたマネーの出入りで大きく値が振れやすい。それゆえ例えて言えば、ビッグマネーの視点で銀とプラチナは、鯉がうっかり金魚鉢に入ったものの出られなくなる(プロの立場だと、売り逃げしたい時に足元を見られ吹っかけられる、或いは買い手が見つからないような状況)リスクがあるのだ。
筆者はスイス銀行の外国為替貴金属部ディーラー生活があまりに刹那的で、見切りをつけ辞める際に、銀行側から「がんばってくれてありがとう。特にプラチナ部門での貢献度が高かった。」と記念品にノーブルプラチナコインをプレゼントされた。「君がライバル行にゆかず良かった。」と上司が言ってくれた時にはディーラーに対する最大級の誉め言葉ゆえ、思わずグッときた思い出がある。まだコンプラとか高速度ネット売買が存在せず、思い切り自己勘定でディーラーは売買できた、と言うよりさせられた。今は行内のリスク管理が厳しく、アーブ(裁定取引)しかできないので、割り切れば楽だが胃が痛くなるような本当の相場売買を経験できないので、やる気満々のディーラーの間にはモヤモヤ感が漂っている。
それやこれやでプラチナには個人的に思い入れがあり、プラチナ価格が金より遥かに安くなっても、心の中のセンチメンタルバリューは変わらない。でも解説役に回った今は客観性を重視して冷ややかな見解に徹している次第。そんな話を知り合いの記者に語ったところ、今月後半の朝日新聞の「私の記念の一品」みたいなコラムに登場することになった。世間的には金ブームでプラチナ価格への注目度は低い。それでも多くの一般の人たちは未だにプラチナはゴールドより値が高く「プレミアム感」があると思い込んでいる。プラチナカードのステータスがゴールドカードより高いことに抵抗感を覚えない。宝飾品でも「ゴールドはお母さんの世代。娘の世代はプラチナの方がファッショナブル」という価値観が根強く残る。
実は、近年のファッションセンスでは首回りを貴金属で飾らず、鎖骨を磨くエステの方に消費支出が回ることが宝飾業界にとって「困った」現象なのだけれどね。更に宝飾品の素材という見地からも、貴金属にはこだわらず、皮とか鉄とか自由な選択が当たり前になっている。デパートの一階に出店している「コスチュームジュエリー」と呼ばれる業界カテゴリーだが、貴金属業界側から見れば「ジュエリー」ではなく「アクセサリー」というような複雑な心境の言い回しになりがちだ。
雑談が長くなったが、ワールドゴールドカウンシル在籍時には会社の個室のラックに経済誌と女性向けファッション誌がずらり並んでいたものだ。フランス出張で、昼は中央銀行のバンク・ド・フランスを訪問。夜はパリコレを見るというようなスケジュールもあった。まさにゴールドならではのダイナミックな仕事の醍醐味だったね~。そんな話をテレビでも語るような企画があり、金ブームが拡散中ということを肌で感じる日々だ。