豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. 俄か金専門家が急増
Page4172

俄か金専門家が急増

2025年10月16日

金価格高騰がこれほど話題になり、我々から見ると一夜漬けの「俄か金讃美者」が急増している。例えばある著名なエコノミスト氏はアンチゴールドで、金などに投資するのは非合理的行動と明言していたのに、急に「今こそ金!」みたいな論調に変身していた。唖然。こういう人がこれまで説いてきた一般経済理論さえも疑わしく感じてしまう。まぁ知ったかぶりもほどほどに。

メディアも然りで、金と言えば密輸とか偽物の話題ばかりで、まともにポートフォリオの中の金について論じる風潮が極めて希薄であった。それが今や手のひらを返したように金の必要性を熱く説いている。ところが一夜漬けの悲しさで、トン表示がキロ表示というような初歩的ミスから、陰謀論如き論調を平気で発信している事例が目立つ。金本位制復帰論に至っては何をか言わんや。

とまぁブツブツ書いてきたが(笑)、ここは笑って許そう~。
昨晩のNY市場では、米国を代表する銀行家であるJPモルガンのダイモンCEOが決算発表で「このような環境では、金が5000ドルにも10000ドルになっても驚かない。」というような発言をして話題に。カリスマヘッジファンドのレイ・ダリオ氏も金の保有を推奨。掲示板投資グループのレディットも金・銀売買に走っている。

かくいう筆者も昨日は朝と夕方の二回に亘ってTBSで「銀」の話。今日はこれから日経マネーのYouTubeで金を語る企画。

努めて自戒して、このブーム的熱気の中で冷静なスタンスを保つべく行動している。少し金の悪口叩くくらいでバランスが取れるかも。

筆者曰く、今年の上げっぷりは異常。来年もこのペースが続くと期待するな。長期的上昇傾向はいささかも変わらないが、上げのスピードは加速・減速、場合によってはバックの時期もあろう。

総じて、金の世界にはパラダイムシフトが起こっており、過去の経験則はもはや当てはまらない。

昨日は日本国内で投資用小型金塊の販売一時停止が今頃になって報じられた。見出しが売れ過ぎて「売り切れ御免」。筆者の感想はまたXの@jefftoshimaに投稿した。

このX(旧ツイッター)アカウントは今年に入り手が回らず、事実上ストップしていたが、ここにきて再開した。相変わらずフォローしている人がゼロという一方的情報発信の姿勢だが、いつの間にかフォロワーも5万人に迫ってきた。と言っても地味なアカウントだから、Xの世界では大したことないけどね。まぁブログと相乗効果を意識している感じだね。

最後に銀についてだけど、基本的に金とは異なり、単なるロンドン現物市場での在庫不足。銀を保管施設にかき集め、出し惜しみする「退蔵」傾向が強まり、モノ不足感を煽る。更にトランプ氏による銀への課税が噂され、米国市場への駆け込み的現物搬入がロンドンの現物不足感に拍車をかける。
そこで、例えば契約で銀を買わねばならない業者は足元を見られ言い値で買わざるを得ない。先物で金を安く売ってしまった投機家は、締め上げ(short squeeze)で悲鳴を上げる。

でも、例えばトランプ氏の「銀への課税は無し」などの発言ひとつでちゃぶ台返しとなるリスク。そもそも銀価格が高くなれば、リサイクルは増え、高値に連られて退蔵されていた銀がロンドン市場に還流。ロンドン市場の品不足は緩和される。
とは言え、元の水準まで下がることはなく、新たな需給均衡点を模索することになろう。

投資対象としての銀は値動きが荒いのが特徴ゆえ、お世辞にも「安全資産」とは言いかねる。銀を外貨準備で保有する国もない。ただ、ETFの形で金融商品化されたので、特に投機マネーの流入は間違いなく増えた。とは言え、老後の資産として貯えるなら、やはり金だね。これが筆者の見解。一部の業者の友人からは、30キロの銀現物のデリバリーを頼まれ、タワマンの30階まで運ばされ腰痛が慢性になったと嘆く声も聞こえてくる(笑)。まぁ当面、腰痛の快癒が期待できる雰囲気ではないね~。

2025年