2025年8月14日
トランプ大統領の民間企業介入はゴールドマンサックスのエコノミストに及んだ。SNSへの投稿で、同社CEOをファーストネームで呼びかけ「ソロモンよ、さっさと新しいエコノミストを雇いなさい。」と呼び掛けたのだ。その理由は「同社はかなり前から関税とマーケットに関して悪い予測を発表してきた。」というもの。ソロモン氏が個人的にDJ(ディスクジョッキー)に肩入れしていることから「ソロモン氏はDJに専念すればよい。」とも述べている。
この発言がウォールストリートジャーナルなど現地経済メディアにより報道されたことで、市場の関心度が高まっている。
やり玉に挙げられたのは同社チーフエコノミストのヤン・ハチウス氏と見られる。同氏が同社経済調査チームとして、関税は労働市場を悪化させ、インフレ率を高め、米国経済減速を招くと予測してきたことが、トランプ氏はお気に召さなかったようだ。他社のエコノミストたちの間でも同様の見解が目立つので、ウォール街の最大の投資銀行のエコノミストということで、狙い撃ちされたとの見方が大勢だ。
ハチウス氏は、例えば今話題の雇用統計など重要経済指標発表後には経済テレビ局に呼ばれ、解説役として出演する常連である。ウォール街のムードを反映するオーソドックスな見方に徹しているので、筆者も常日頃、同氏が画面に映れば注目して意見を聞いてきた。
CPI発表を控えた今週初めに発表された同社のレポートでは、米国消費者が関税コストの22%を吸収して、更に今後、新たな関税が発動されれば、その比率は67%になるとしている。
なお、トランプ氏はゴールドマンサックス社に遺恨があるとも言われる。昨年9月に大統領選で民主党勝利を予想して、共和党勝利なら経済減速との見解を披歴したからだ。ハセット現国家経済会議委員長(次期FRB議長候補の一人)が同社のエコノミスト人選に異論を唱えたことも記憶に残っている。
ただでさえトランプ氏は過去に銀行口座開設を拒否されたと主張して、銀行の政治的・宗教的な顧客差別の実態調査を命じ、銀行側は反論に動いている最中のことである。
筆者の存じ寄りのエコノミストも、発言次第ではトランプ氏による批判を受けかねないと危惧していると心情を吐露した上で、言論統制に近い言動に憤慨を隠さなかった。
既に雇用統計速報が廃止された場合に、他の労働市場関連指標の組み合わせで労働経済を分析する方法論なども、エコノミストの間では議論になっている。
経済統計の集計法の見直し、関連官僚の解任、そしてFRB人事への露骨な政治的介入と続き、ウォール街には筆者もこれまで経験したことのない淀んだムードが漂っている。
中国並みの言論統制。トランプ独裁国家。