豊島逸夫の手帖

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金価格、年内、暴落も視野に

2025年3月25日

山高ければ、谷深し。
3000ドルまで本格調整局面もなく一気に突っ走り、前代未聞の大台を突破して、なおモメンタムによる新規買いが上昇圧力として期待されている。

NY金市場の最前線ではAIを駆使したプログラム売買が多用され、買いが買いを呼ぶ展開になりやすい市場環境が形成されている。そこで働くゴールドトレーダーたちも金専門家ではなく、行内人事異動で株式・債券・外為部門から転任してきた人たちが目立つ。それでも一人前としてやってゆけるのは金ETFの普及により金の金融商品としての面が強くなり、コモディティーとしての面と同様、或いは時としてそれを凌ぐインパクトを特に短期的価格形成に与えているからだ。
金市場が長期的需給均衡点を探る過程で短期的乱高下のレンジが急激に拡大しつつある。金ETFは本来、年金基金の長期的金保有のために商品開発されたが、実際には手数料引き下げ競争の中で投資家の短期売買ツールとして人気化したからだ。金ETFのNY市場と東京市場の上場に直接関与した者としては意外な展開になったと感じる。

このような市場環境の中で金の長期保有が見込めるのは、公的部門の中央銀行とインドや中国など文化的金選好度が高い新興国の現物購入だ。この二部門が金価格の底値を切り上げてきた。

その上に新雪ドカ雪の如く積もったのがヘッジファンドなどの投機的購入だ。グローバルマクロ系でも金保有は長くて2~3年が目途というところか。CTA(コモディティートレーディングアドバイザー)などの超短期系ともなれば1週間程度で売買を繰り返すことが珍しくない。このような参加者抜きでは短期間で3000ドル突破など、いくらトランプリスクヘッジという「錦の御旗」を掲げてもあり得なかったであろう。
特に地政学的リスクを囃す金買いには要注意だ。陳腐化しやすい材料ゆえ「噂で買ってニュースで売る」というような手口に利用されがちだ。結局、煽られた個人投資家(投機家?)が梯子を外され、高値掴みに泣く事例をどれだけ見せつけられてきたことか。NISA世代の諸君に筆者は「有事の金のドカ買いは、悪魔の選択」と語り戒めている。

なお、ニュースにはならないが、潜在的に巨大な売り要因が歴史的高値圏では控えている。それがリサイクルだ。金は腐食しないので、有史以来採掘された金のストックが「地上在庫」として推定216000トンほど地球上に存在する。年間金生産量は3600トンほどゆえ、地上在庫のほんの一部が高値につられて金市場に還流してくるだけで、金価格には強い下げ圧力がかかる。既に世界的に金買い取りインフラが整備されてきた。この「金売り戻し現象」には特徴がある。人間の欲として、できるだけ高く売りたいから、市場が強気予想に満ちている時はお宝を手放さない。しかし、何らかの理由で相場が下げに転じると、我先に換金売りに走る。一人の売る量は少ないが、世界的に数百万人が一斉にリサイクル店に押しかければ国際相場を動かす力を持つ。ボディーブローの如く、じわりマーケットに効くのだ。

以上の状況を考慮すれば今年前半は株式・債券・外為市場を覆う不確実性が晴れず、金価格が3300ドルをつけることもあり得る。しかし、その持続性はかなり危うい。ひとたび金市場を囲む環境が変化すれば2500ドルまで急落しても全く不思議ではない。それでも歴史的には超高値圏なのだ。

アテネの金買い取り店(筆者撮影)

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2025年