豊島逸夫の手帖

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いきなりの日本株高騰に戸惑うNISA初心者

2024年1月12日

会社の同僚が続々とニューNISAを始めたことに焦りを感じ、自らも投資の勉強を始めた初心者たちが突然の日本株急騰に戸惑いを感じている。バブル後、新高値のグラフを見て「こんな高値圏から積立を始めてもいいの?」素朴だがもっともな疑問だ。

20年、30年計画の長期積立ゆえ短期の乱高下に一喜一憂するなと言われても、投資未体験者にとっては清水の舞台から飛び降りる如き心理になりがちだ。

特に日本人はリスク耐性が弱い。筆者が以前勤務した機関で投資について同じ質問表を基に主要国の特性を調べたところ、米国人と中国人が似ていて「相場がここまで上がれば、もっと上がる」と考える傾向があった。対して日本人は「ここまで上がると、下げそうだから様子見に徹する」という回答が非常に多かった。「今日買った株が翌日下がると頭の中が真っ白になる」という反応も目立つ。
それゆえ今回のような日本株急騰劇に接すると、とにかく「ニューNISA計画を延期」という決断になりがちだ。

女子会で1回3000円払う人でも、積立投資で1回3000円株を買い、その株価が下がると「えらく損した」という気分になる。
しかし、投資残高が未だ少ない段階ゆえ、未だ消化可能な心理的ショックなのだ。熱い風呂に入るときの「かけ湯」をイメージすればよい。投資で損するという苦い気持ちを金銭的ダメージが最も少ない段階で体験することで、徐々にリスク耐性が強まることは間違いない。更に人間の欲を利用する姿勢も重要だ。これまでニュースで聞き流していた株価変動の報道も、「なぜ?」と自分事として考え始める。
これがルーティーンになればしめたものだ。
今の内になかなか経験できない相場劇に出会えて、ラッキーと思うべきであろう。

筆者は年齢を問わず資産の殆どが預金か現金という人たちを中心に投資について語っている。この層はとにかく「どの株を買えばいいの。それだけ教えて」と直接的な質問を投げかけてくる。積立といっても計画性の心理に欠ける。最も難しい層でもある。しかしこのグループを動かさねば、ニューNISAが大きく育つことは覚束ない。昨日も今回の日本株急騰をニュースで聞きつけ「プロなら裏技知ってるでしょう?もったいぶらずに教えてよ」と言い寄られた。

実は金の世界では1980年代から「純金積立」型の商品が登場して、今やメインの金投資法として定着した。筆者がワールド・ゴールド・カウンシルで業界全体の金積立口座数を把握できる立場にいたころ、既に全体で70万口座程度であったから、今はもっと増えているはずだ。しかも円建て金価格が1万円を突破して史上最高値圏にあるので、純金積立会員のほぼ全員が含み益を得ている。但し、そこで問題は今解約すべきか、或いは新規の人は今加入すべきかということ。総じて会員数は増えており解約も少ない。やはりリスクだらけの世界に備える心理なのであろう。

ニューNISAも今後株価が大きく変動する場面が不可避だ。投資の知識も不可欠だが、リスクに耐える「胆力」を養成する努力も重要だ。但しこればかりはセミナーで教えることはできない。自ら不愉快な気持ちを味わい、慣れてゆくことしか方法はない。かくいう筆者でも今日買った株が明日下がれば未だに不機嫌になる。悟りを開くなどという心境に達するのは凡人には不可能である。

2024年