豊島逸夫の手帖

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NY金(6月限)2250ドル台で高値引け、2300ドル視野に

2024年3月29日

イースター休暇前の昨晩はNY金先物価格が史上最高値を更新した。

理由は特に無い。短期的ファンドによる投機相場だ。しかし史上最高値圏でこの説明できない相場が続いてきた。筆者の長年の経験で説明できない相場が長続きすることがあるものだ。ファンド筋は理屈を無視してモメンタム(市場の勢い)に乗り売買を繰り返す。2100ドルくらいから買っては売りを7~8回は続け、連戦連勝ゆえ心理的余裕もある。

それにしても所謂市場の法則から言えば、今の金相場は下がって然るべきなのだ。

まず米国の利下げ。「FRBが史上最速利上げを敢行したが懸念された不況に陥るどころか、米GDPは昨日も2023年10-12月期の確定値が発表されたが何と年率で3.4%。インフレは確実に鈍化してGDPは良いのだから、ここで利下げなど余計なことをすれば資産価格バブルを誘発するだけだ。」との議論が優勢になっている。次期FRB議長候補にも名前が挙がるウォラーFRB理事は「利下げを急がず(no rush)場合によっては3回とされる利下げ回数を減らすこともあり得る」とまで述べた。この論調は金利を生まない金には逆風となるはずだ。2024年は利下げが3回以上あるという想定が、金利を生まない金にとっては強い買い要因であった。その前提が崩れつつある時にNY金が2300ドルを志向する展開になっている。

さらに、中央銀行の金買いもそもそも外貨準備はドルなどの金額表示で金の重量表示は使われない。金価格が上がれば実際に買われる金の量は減ってゆく。実際に今年に入ってから中央銀行の金買いは鈍化傾向にある。

そして、中国・インドの実需。これまで高値圏でも堅調であったが、さすがに2200ドルとか2300ドルの高水準では現物買いが躊躇われる可能性が強い。特に人民元もインド・ルピーも対ドルで安くなっているから、日本と同じく現地通貨建ての金価格は上げが加速している。長年中国人やインド人の金買いはバーゲンハンターと言われてきたが、さすがに現状の価格水準では手が出ないであろう。逆に現物の売戻が急増する可能性がある。

かくして、これまで金価格上昇要因とされてきたことが今は成り立たない。説明がつかないので「謎の金高」と言われるのだ。

唯一地政学的リスクは中東・ウクライナ・台湾などでライブ(生きている)だ。しかし足元で2300ドルを目指すほど悪化しているわけでもない。

円相場については介入があれば140円台半ば程度まで円高に振れる可能性があるが、介入を長期間続けることはできないので、日本の金融当局が手を緩めれば、円売り・ドル買いの流れが再び市場の主流となろう。植田総裁も「国債購入は続け、緩和姿勢は維持する」と語って、利上げに戦々恐々だった市場を慰めるつもりが、円安の思わぬ進行で、結果的には自作自演で介入せねばならぬ状況を演出してしまった。「こんなはずではなかった」というのが本音であろう。

円建て金価格も暫時介入で下げても一服すればまた円安効果で上昇となろう。

筆者は、理屈はあれこれ語るが、そもそもトレーダー出身なので「相場は勝てば官軍」と割り切っている。

まぁ米利下げが始まると予想される6月までは金価格上昇が続きそうだ。6月以降いざ利下げ実施となれば、そもそも2024年には6回の利下げを市場は期待していたのに2回だけとされると、さすがに失望感が強まるであろう。それでも今や金価格のレンジの下値は2100ドル程度まで切りあがっている。

2024年は金にとって歴史的な年となりそうだ。

2024年