豊島逸夫の手帖

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「敵は本能寺」パウエル議長の本音とは

2024年8月26日

ジャクソンホールの結果はほぼ想定内。NY金は引き続き2500ドル台の歴史的高値圏。
先物買いの調整売りが入っても下値は買われるであろう。今後のテーマとして米新政権の財政政策が重要になる。具体的には放漫財政→米国債格下げ→安全資産としての金買い。リーマンショックでも経験済みのシナリオだ。

以下はそれを含めた筆者のマクロ的なジャクソンホール感想文。

ジャクソンホールでの「時は来たれり」というパウエル発言がドラマチックゆえ専ら注目されたがNY市場の投機筋は冷めている。日本流に言えば「時は来たれり、敵は本能寺にあり」とでも言いたげな様相なのだ。米金融政策の今後のシナリオの大筋が見えたところで彼らの視点は11月5日の米大統領選挙に移っている。市場の材料としては米金融政策から米財政政策への移行が既に意識されているのだ。景気下支え的な金融政策と選挙公約として掲げられる積極財政政策のポリシーミックスが市場にどのような影響を与えるかが議論されている。

特にトランプ氏有利であれば「関税引き上げ、法人税引き下げ」と財政規律の緩みを想起させる政策が並ぶ。「違法移民強制送還」も含めればインフレ的傾向も強いので、物価と雇用のデュアルマンデートを背負うFRBパウエル議長としては「利下げどころではない」という展開になりかねない。それゆえ「時は来たれり」と大見栄を切った割には、実際の利下げスケジュールに関しては「データ次第」として結局何も語らなかった。

基本的に財政政策はFRBが関与するところではないものの、仮にインフレが再燃すればFRBも連帯責任を取らされる羽目になろう。中央銀行の政治的独立性を無視する如きトランプ発言も含め「敵は本能寺のトランプ氏にあり」という展開になるリスクが無視できないのだ。一方トランプ氏も「利下げ、ドル安大歓迎」ながら、実際の政策は利上げ・ドル高に振れる矛盾を孕む。このような不透明感こそ投機筋が「ここは我々の出番」と意気込むところでもある。

一方、ハリス氏有利となれば、そもそも大きな政府、積極財政は民主党の伝統的な十八番(おはこ)であり、トランプ氏と大接戦になれば、人民迎合的なバラマキ的政策を持ち出す可能性も否定できない。

このような状況ゆえ、ジャクソンホールを終え9月2日のレイバーデー連休が明ければ、一気に秋相場入りとなり11月5日の大統領選挙日までマーケットに再び大混乱が起きるリスクがある。まずは雇用統計、9月FOMC、そして日々メディアに流れるトランプ・ハリス発言、更に目が離せない中東地政学的リスク。

ドル円のレンジとして140円から155円までボラティリティーの激しい値動きとなろう。因みに植田総裁がジャクソンホールを欠席したことについて、NY市場で話題に挙げてみると「He is not missed」(彼の欠席を誰も残念に思っていない)と素気ない返事が返ってきた。8月に過去最大日経平均急落を見せ付けられ、日銀が市場にサプライズを与えるような動きをするわけがなかろうとの見解でほぼ一致している。日本株については今や「仕手株扱い」なので東京市場の売買の7割前後を占めるとされる海外勢(特に短期系)は、売り買いどちらにも攻勢をかけるべく日々の成り行きをNYの深夜にも関わらず狙っている。中長期運用のファンド筋に関しては特に日本株の運用比率を引き下げるような動きは見られない。決して派手ではないが粛々と買いを進める流れである。

NISA投資初心者たちはシートベルトを低くきつく締め、乱気流に耐える「胆力」を鍛えねばなるまい。

2024年