豊島逸夫の手帖

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中国と金

2024年1月31日

中国にとって金は「通貨」として中国人民銀行が外貨準備として買い増す面と、ハイテクに欠かせない素材として長期的に備蓄してゆく面がある。後者はさすがに穴を掘って埋めるわけではないが、中国人民に金を保有させ、いざとなれば供出させる意図が透ける。要は中国国境内に物理的に金地金が存在すれば、金が足りなくなった場合に召し上げるというわけだ。全体主義国家ならではの発想である。

筆者は上海黄金交易所開設と中国大手商業銀行の貴金属部創設にいずれもアドバイザーとして招聘された。金の公設取引所を創設する動機について当時の幹部は「人民に金を保有させるために、国内金売買を促進する。」と語っていた。「中国国内の過剰流動性が放置されると不動産投機に流れるが、金地金で保有すると長期保有になるのでマネーが暴れることはない。」とも本音を語っていた。

金取引所の幹部は中国共産党の褒賞人事で決められ経済や金に疎いことが多い。例えば筆者が当たり前のこととして「金の生産者が大量売却すれば金価格は下がる。」と説いたところ「豊島先生、売らせなければいいでしょう。」と返してきた。「売りで下がる」、「売らせない」と全く発想が異なり、話が進まなくなり、そこの部分は棚上げして議論を進めたこともあった(笑)。

なお、今年も春節には大量の金が縁起物として購入され、業界にとっては最大の稼ぎ時だ。但し中国経済悪化により客単価が減ることを懸念しており、あれこれ販売促進を展開している。人民元安で人民元建て金価格が上昇したことも、価格効果として金国内需要を委縮させている。とは言え文化的に金選好度が高い国ゆえ、小さくても金を購入する傾向は変わらない。

写真は筆者が上海で講演した金セミナー風景と大手銀行支店内での中国金文化説明パネル。

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なお、筆者の中国での肩書は「黄金分析師」(笑)。ワールドゴールドカウンシルは「中国黄金協会」。怪しい(笑)。

2024年