豊島逸夫の手帖

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円・株 大波乱 日銀、過てり、最後はトランプ頼みか

2024年8月5日

日本株の異常な下げ方と円高進行が世界の市場を揺らす可能性が強まっている。2日発表の米雇用統計悪化が日米株安という火に油を注ぐ結果になり、5日に至り稀に見る日本株急落を招いた。
3日にBSテレ東「日経サタデー ニュースの疑問」に生出演した時に使った表を添付した。これは先週金曜NY引け時点の数字。今朝は更に大荒れの状態だ。

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長期間デフレに蝕まれてきた経済が輸入インフレに見舞われ、中央銀行が利上げに動くとこうなるのか。典型的な劇場のシンドロームだ(観客が一斉に非常出口に殺到する如き現象)。日本株見切り売りを急ぐ海外勢からはため息交じりのつぶやきが聞こえてくる。

とは言え、振り返ればそもそも今回の日本株売り主体も海外勢であった。
CTA(コモディティートレーディングアドバイザー)など超短期筋が想定外の日銀利上げと後手に回ったFRB利下げという口実で日米株式市場に先物売り攻勢を仕掛けた。実は彼らも焦っていた。大規模な円キャリートレードが円安サイクル終了近しとの判断で一気に巻き戻され巨額の損失を被ったからだ。このようなケースではヘッジファンドは新たな仕掛けで損失を取り戻すべく動く習性がある。そこで絨毯爆撃の如き日本株先物売りに打って出たのだ。

結局、一般個人投資家や機関投資家が巻き込まれ右往左往する流れになっている。バリュエーションを語るのも虚しい。NISA初心者からはパニック的な悲鳴が聞こえてくる。「複利効果が重要だ、長い目で見よ」と説いたところでリスク耐性が鍛えられていない。こればかりはセミナーや書物で教えることはできない。胆力は今回のようなショックを体験しつつ醸成されてゆくものだ。

対して、プロの間では「パウエル議長と植田総裁の痛恨の判断ミス」説が有力視されてきた。「FRBは不況予防対策として7月に利下げ開始すべきであった」、「日銀は利上げを見送るべきであった」との見解だ。既にNY市場で合言葉が「FRBには逆らうな」から「FRBを疑え」に変わったが、日本市場でも「日銀はリスペクトすべき」から「日銀を疑え」に転換しつつある。外国人投資家の間でも「ミスターウエダ、過てり」の批判的論調が増えてきた。

とは言え、投資家レベルでは説明責任を問うなどと悠長なことは言っていられない。とにかく売り手仕舞って、暫くはマーケットから距離を置くという姿勢が顕著になろう。
「真夏の出来事」などとロマンチックな表現を使えば投資家心理を逆なでするだけであろう。
この日米株価大波乱を収める人物がいるとすれば、皮肉なことだがトランプ氏か。関税引き上げ・大型減税・不法移民強制送還など、いずれインフレ再燃のリスクがある。FRBは利下げ延期を迫られよう。結果的に外為市場はドル高・円安基調に戻る。そもそもウォール街には隠れトランプ支持者が多い。規制緩和・減税を期待してのことだ。
中東混迷も同時進行する中で、米大統領選までは日米株価迷走が続きそうな雲行きである。
年末までには落ち着き、円安方向に戻ると筆者は見る。
国内金価格も当面円高の影響が強い。

追記
日経平均は史上最高の下げ幅。円相場は141円。
何が起こったかと言うと、円キャリー取引の逆回転(巻き戻し)で巨額の損失を被ったヘッジファンドがその損失を取り戻そうと日本株の指数=日経平均を売りまくって、一般投資家のパニック売りを誘発した。
その流れで儲かっているゴールドも売って、少しでも損失を少なくしようとの動きが出るかも。
円相場はいずれ円安に戻るとの見解に変化なし。

それから世界は今や中東全面戦争のリスクに身構えている。これがマーケットのムードを悪化させている。NY金も基本的には上げ基調なれど先述の換金売りも出やすい。
不気味なセンチメントが支配している。

2024年