豊島逸夫の手帖

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NY金(6月限)一時2400ドル突破

2024年5月16日

注目のCPI(米消費者物価上昇率)は久しぶりにインフレ鈍化を示し、FRB年内利下げ見通しが復活した。これは金には追い風。

以下、米CPIについての詳説。

5月14日には「1~3月のインフレ指標上振れにより、物価目標2%達成に自信が持てない」とアムステルダムで語っていたパウエル議長も、4月CPI鈍化が確認され取りあえず安堵しているであろう。とは言え同氏は常々「最も恐れるのは国民の間にインフレマインドが定着することだ。ひとたび定着するとこの心理状態を変えることが難しくなる。」とも述べてきた。実際に米国民の生活を見るに物価が下がったとの実感は薄い。米個人投資家は4月CPIの結果を確認して、米国経済軟着陸への自信を深めているが、実生活でインフレの呪縛から解放されたとの安堵感に浸る心理的余裕はない。消費者物価上昇率3%以上の状況が3年も続いているのだ。パウエル議長にしてもサービス産業由来のインフレが最も頑固であるとの認識は容易に変えられない。そこで物価下落の「ラグ」を考慮した上で、利下げへの転換を宣言できる具体的時期として浮上してきたのが、8月恒例のジャクソンホール中央銀行フォーラムだ。この会議でパウエル議長がFRB利上げ加速の時期に超タカ派とも言える講演を行い、市場が驚愕したものだ。それが今年は高らかに緩和へのピボット(転換)を明言する場になる可能性がある。もちろん今後も毎月雇用統計とCPIに振り回される状況は変わるまい。但しこれら重要経済統計が仮に上振れしたとて「統計上のノイズ」として片付ける余裕は醸成された。

今後の米インフレについて、市場の目線は「財政赤字や地政学的リスク由来の物価上昇」を重視することになろう。昨日はドクターカッパーの異名を持つ銅の価格急騰も盛んに議論されていた。

なお、大統領選直前の金融政策変更は、いかに政治的独立が保証されているとは言えパウエル議長としては避けたいとの観測も絶えない。パウエル議長の後任候補としてトランプ氏と良い人間関係を築いてきたウォラー理事の名前が挙がることも悩ましいことであろう。利下げ開始時期や回数にしてもウォラー氏はタカ派とハト派のどちらとも解釈できる発言で市場をかく乱してきた。パウエル議長もFOMC内の根回しに時間を取られる可能性がある。

まずは、6月11、12日に開催されるFOMCの際に発表されるドットチャート(FOMC参加者の金利予測分布)が極めて重要になる。その上でジャクソンホール会議に身構えることになりそうだ。既に気の早い市場関係者たちからは「今年の夏休みは家族の中で私だけが早めに切り上げることになるかもしれない」との「ぼやき」も聞こえてくる。

なお、円建て金価格形成に重要な円安への影響だが、153円まで円高局面もあった。しかしNY市場内では中期的に150円台は当たり前の如き市場センチメントが醸成されつつある。基本的にFRBの「金利は高水準に維持する」(hold and longer)の姿勢は変わらず、為替介入で140円台後半に持ち込むのは困難との見解が主流だ。もはや米インフレより円安の方が「粘着質」と語られている。
円建て金価格が為替要因で下がり難い状況は未だ続きそうだ。

2024年