2024年9月20日
9月FOMC後の記者会見でパウエル議長が9回も使った単語が今やウォール街で流行り言葉になっている。その言葉とは「recalibrate」。「再調整する」或いは「修正する」という意味で使われる。例えばパウエル議長は「インフレ率が高く失業率が低かった1年前の政策スタンスから、現在の状況や今後の見通しを考慮した政策スタンスに再調整するプロセスで、時間をかけて進行する」と語っている。「再調整」期間中はインフレ率や失業率の出方次第で利下げの幅と回数も変わると市場では解釈されている。
そこで気になるのが11月FOMCでの利下げ幅だ。0.25%か0.5%か或いは利下げ見送りか。0.5%に達せねば金高騰の宴も中締めのリスクがある。
この重要な金融政策再調整に最も強い影響を与える経済統計が9、10月の雇用統計だ。
既に今年、市場は上下に振れる雇用統計に振り回されてきた。
まず、2月に発表された1月雇用統計の非農業部門雇用者数が35.3万人と大幅に上振れた。市場では早ければ3月にも利下げが開始され、年7回利下げ予測まで出回っていたが、このサプライズで一気に見通し修正を迫られた。
そして記憶に新しいのが8月2日に発表された7月雇用統計。
雇用者数が11.4万人の増加に留まり、市場予想を大幅に下回った。失業率も4.3%と前月比で0.2%上昇した。この結果を受け8月5日の東京株式市場では「令和のブラックマンデー」が勃発。
時系列としては7月雇用統計発表直前の7月30、31日に7月FOMCが開催されていた。もし事前に雇用統計の下振れが分かっていれば、FRBも7月の時点で救済的利下げ開始を決定したであろうと市場では語られたものだ。パウエル議長がまたもや後手に回ったとの厳しい声も聞かれた。
今回の記者会見でもこの点をずばり聞かれたパウエル氏は「NO」と平然と受け流してみせた。しかしこの一件がトラウマとなり、7月分と9月分を合わせて0.5%の大幅利下げに踏み切ったとの見解は未だに市場内に残る。更にその延長線上に11月FOMCでも0.5%大幅利下げ有力との説が流れる。とは言えここでは9、10月雇用統計の結果が極めて重要になる。
仮に雇用者数が大幅に下振れ、或いは失業率が悪化(上昇)すれば、救済的な0.5%大幅利下げが再度決定されよう。一方、雇用統計がかなり良い結果を示すと、堅調な米国経済(特に労働市場)が過熱化してインフレ再燃のリスクがあるので、利下げするにしても0.25%に留める、或いは利下げ見送りもあり得る。そうなると大幅利下げの宴で金を買い上げてきた人たちの中で、特に短期投機筋が一斉に金の見切り売りに走る可能性がある。ドカ雪の表層雪崩の如き現象となろう。
総じて2600ドルと言えば歴史的に超高値圏だ。冷静に見て、筆者は「コモディティー」としての金のファンダメンタルズである需給の均衡点を上回る価格水準だと思う。投機筋の荒い売買にはバブルっぽい匂いもする。それでも「金融商品」としての金には強い買い材料がある。利下げ、米財政赤字問題、そして外貨準備としての金購入、地政学的リスク、文化的に金選好度が高い中国・インドの民間金現物需要。これだけファンダメンタルズが良い投資商品はいまどきレア物だ。だからこそ旬の金融商品として扱われるのだ。買い手も中長期運用のヘッジファンドや超富裕層のまとめ買いなど長期保有組が目立つ。
但し人気商品には投機マネーも集まり、短期的価格変動は激しくなるものだ。目先の派手な値動きに惑わされず、しっかりとマーケットの潮流を見極めることが肝要である。
短期的価格乱高下を繰り返しつつレンジの下値を切り上げ、2700ドルを目指す展開と見る。