豊島逸夫の手帖

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国内金価格、円安加速の影響強し

2024年4月30日

円相場の見通しに160円台が増えてきた。仮に国際金価格が上がらずとも為替要因で円建て金価格は上がりそうだ。
その円安に関してNY市場では日銀とFRBの情報発信の違いが話題になっている。
例えば「日銀会合で参加者たちはドットチャートのような個人的金利予測を行わないのか」というような質問が印象的だ。
「日銀総裁の記者会見での発言が断片的に英訳されて伝わってくるがよく理解できない」という素朴な疑問も目立つ。
「確か今回の日銀会合では利上げ見送りが事前予測であったと聞いている。緩和継続も想定内であろう。それが結局総裁の円安に関する直接的発言が不十分或いは分かり難いとの理由で円相場はレッドラインを突破した感がある。市場は円安について日銀総裁から不安感を除去するような発言を事前にそれほどに期待していたのか。我々遠く観客席から見ていた視点では何やら試合中にゴールポストが移ったような印象だ。これでは正しく投機筋の思うつぼではないのか。」とのコメントもある。

筆者も日銀会合とFOMCの際の中央銀行トップ記者会見を見続けてきたが、確かに日銀の方が日本人でも解釈が難しい。行間を読まねばならず、禅問答の如く難解だ。しかも同じような質問が繰り返される。対してFRBの方は若手の女性記者たちが「ハロー!ミスターチェアマン」と明るく切り出すシーンなど、フランクな印象で質問の内容も多岐に亘る。FRB高官たちが常日頃利下げ回数など具体的に意見を述べているので、日銀に比しかなり突っ込んだ議論が交わされる。

一方、円売り投機に走っているヘッジファンドは「高笑い」かと思いきや、介入当局との我慢比べの様相で緊張感がひしひしと伝わってくる。140円台後半から150円程度で円を売った人たちは声高に介入があっても150円に戻すのは難しいと強調する。しかし円という通貨を持っていないのに円を売った人たちの心理は、早々に円を買い戻さねばという焦りに揺れるものだ。そもそも損切りより利益確定の方が「欲との戦い」で難しい。まして相手が介入当局となれば、これは我慢比べとなる。先週金曜日に発表されたIMM(通貨先物取引所)の円ショート件数はネットで179,919枚と記録的な高水準まで膨張したが、この数字は先週火曜日時点のもので日銀会合後の円売り枚数は未だカウントされていない。何れにせよ市場の底流には円買い戻しマグマが沸々と蓄積している。当面円売り優勢論が圧倒的だが、投機筋の本音はいつ臨界点に達するのか戦々恐々なのだ。彼らの悪夢は米インフレが今後意外に順調に収束して、FRBも安心して利下げできる市場環境になることだ。FRBの制御不能な地政学的リスクやら財政赤字膨張によるインフレ再燃は米金利高止まり要因として秘かに「期待」しているところとなる。
現時点ではファンダメンタルズが明確に円安方向を示唆している。とは言え為替市場の大多数が同じ方向を向くことは不気味なものだ。

なお、28日の日経新聞朝刊社説で「金高騰が映す世界経済リスク」と題する論説が載った。
本ブログの読者なら当たり前の話でも、社説を書く人には新鮮な話なようだ。やはり平時に金は注目されず、有事に注目される傾向は変わらないようだ。一般読者は有事の金が騒がれ始めると金を買うかという気持ちになり、平時の時から金を買い増すという発想に欠けているようだ。有事になって「金高騰」とはしゃぐのは後出しじゃんけん!

2024年