2024年8月2日
31日のFOMC記者会見では米経済不況入りリスクを前提とする質問が目立った。
例えば「もし労働市場が冷え込み過ぎるリスクがあると判断した場合、前もって利下げを行う計画はあるか」。
パウエル議長の答えは「より大きな景気後退のようなものがあればそれに対応するつもりだが、私たちは今、いいところにいる。失業率は4.1%と依然として歴史的低さを保っている。データが何を示すか見守る必要がある」。
更にたたみかけるように不況を危惧する質問は続いた。
「経済と労働市場はデータに示されているよりも遥かに急速に冷え込んでいるという考え方をどう捉えているのか」との質問には「細かいデータでも好調・不調の波長が混在していると捉えている」と答えた。このようなやり取りが続くと市場は疑心暗鬼になるものだ。
そもそもパウエル議長はこれまで痛恨の判断ミスを繰り返してきた経緯があるからだ(この点に関しては本欄8月1日付け「NY金、最高値更新、背景にパウエル議長のトラウマ」に詳説したので参照されたい)。
市場の合言葉も「FRBには逆らうな」から「FRBを疑え」に変わってきている。
パウエル氏が不況入りの可能性を抑え気味に否定すればするほど市場の懸念は高まってゆく。
その矢先1日に発表されたISM製造業景況感指数が前月比で低下して、好不況の分かれ目となる50を4か月連続で下回った。
「解雇」が増えていることも最新の新規失業保険申請件数が24万9000件と一年ぶりの高水準になったことで明らかになった。
いかにもタイミングが悪い展開だ。
そして1日のマーケットイベントのトリは時間外で発表されたインテル、アマゾン、アップルの所謂「マグ7」企業の決算発表。いずれも発表後の株価は下落という結果に終わった。
市場には「It is not pretty」という日本なら中学校レベルの英語が流れる。俗語で「見るに堪えないほどの惨状」という意味だ。市場関係者の落胆度が滲む表現である。
しかも今晩(2日)には雇用統計が控える。
もはや利下げの時期や回数を議論する場合ではないとの認識が強まり、代わって利下げの目的が問われている。
インフレ対応というより、景気テコ入れのための利下げが必要かということだ。
なお、市場のセンチメントを悪化させている要因はまだある。
中国経済減速に起因するコモディティー価格急落だ。景気を占う意味でドクターカッパーの異名を持つ銅価格の変調がその典型である。不況に強い安全資産とされるゴールドの価格が同じタイミングで史上最高値を更新していることも単なる偶然では片づけられない。
ハマス最高幹部暗殺事件も中東全面戦争のリスクを孕み、原油価格急騰によるインフレ再燃リスクが無視できない。物価と雇用の所謂dual mandateのバランスに苦慮するFRBにとっても想定外のインフレ要因勃発と言えよう。
金と同様に安全資産と位置付けられる「米国債」が買われ、利回りが遂に4%の大台を割り込んだことも衝撃的であった。
日本は歴史的酷暑に見舞われているが、株式市場に限っては冷房が効きすぎている感がある。
なお、明日3日午前9時半からの「日経サタデー ニュースの疑問」に札幌からリモート出演して6分ほどマーケット迷走について語る予定。