豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. 量的緩和の幕を引くのは二人の女性か
Page1652

量的緩和の幕を引くのは二人の女性か

2014年7月10日

米国量的緩和ゲーム終了までのアディショナル・タイムは10月まであと4か月と発表された。

その間、FOMCメンバーのハト派とタカ派のせめぎ合いが続く。

10日に発表されたFOMC議事録要旨によれば、ハト派の議論は以下の如く記されている。

「2名ほどのメンバーの意見は、インフレ期待高まらずとの望ましくない状況を防ぐために、中期的インフレ・ターゲットへ回帰させるに充分な緩和政策を継続すべし」

一方、タカ派の言い分は、

「他の数人のメンバーの意見は、中期的経済成長が現在の予測より速まる可能性や、潜在的成長率が現在の予測より低いことに懸念材料。FOMCが目標とする雇用・インフレ率をオーバーシュート(上振れ)する事態を回避するため、FFレートの利上げを急ぐべし」

正に真っ二つに割れている。

FOMCにハト派とタカ派のPK戦はない。

議論あるのみだ。世界の投資家が、この論戦の展開を見守っている。

試合は、前半、ハト派のメッシともいうべきイエレンFRB議長の相次ぐハト派コメントにより、タカ派は劣勢であった。

しかし、3日に発表された6月の米雇用統計の事前予測を大きく上回るサプライズをキッカケに、流れはタカ派にやや向き始めた。大手投資銀行の一部は利上げ時期を来年後半から来年前半に前倒し修正した。

それでも、イエレンFRB議長も譲らない。雇用統計の「質」の部分、特に賃金上昇が鈍いことなどを重視している。議事録にも「多くのメンバーは、労働市場の供給余剰(slack)が依然高い水準と判断している。多くのメンバーは、それは、公的発表の失業率より大きいと見ている。その理由としては、特に経済的理由でパートタイ

マーに甘んじている人たちや、労働参加率の低迷などが挙げられる」と記された。

10日の欧米市場では、イエレン・サポーターと化した市場が「利上げ観測後退」と囃した。

このハト派とタカ派のせめぎ合いは、延長戦にもつれこむ可能性が強く、しかも決着がつくまで時間がかかりそうだ。しかも、FRBが経済予測を外しているので、市場は疑心暗鬼状態だ。(例えば、2013年6月の時点でのFRB経済予測によれば2014年の失業率にコア・レンジは6.4%-6.6%であった。しかし、既に6.1%まで下落している。)

結局、FRB当局も今後の見通しを計りかね、市場も次の一手を計りかねている状態が続くのだろう。さまざまなアセット・クラスでとりあえず「つまみ食い」の短期の値幅取りの売買が繰り返されることになろう。

その結果、市場のボラティリティー(価格変動率)は低水準に留まる。

この点に関しては、FOMC議事録にも明記されている。

「FOMC参加者は、最近の金融市場で、投資家がリスクを適正に考慮していないことが論じられた。特に、株式、通貨、債券の低ボラティリティーとリスク許容度の高まりが採り上げられた。市場参加者が、経済・金融政策の行方についての不安感をおりこんでいない印と見る数人のメンバーもいた。」

ニューヨークタイムズが9日に「全てがバブル everything bubble」と題する記事を大々的に掲載したことで、市場内のセンチメントにも警戒感が強まっている。低ボラティリティーは「嵐の前の静けさ」というわけだ。

今後、このゲームの趨勢が決まるタイミングとしては、8月のジャクソン・ホールでの中央銀行会議、そして9月のFOMCが重要だ。

更に、今回のFOMC議事録には、巨額国債・住宅担保証券購入により、4.4兆ドルに膨張したFRBのバランスシートの「正常化」への道筋、即ち「出口戦略」の方法論についての詳細な議論が記されている。

未曽有の量的緩和政策という非伝統的金融政策が壮大な実験ならば、そこからの出口戦略は、更に壮大な未知の分野での実験だ。

具体的には、FRBが保有している住宅担保証券が満期償還された場合、当面は、これまでどおり、その償還額で再び証券類を購入することが明記された。利上げ後も、この債券債購入は続けるとの意思表明である。これは、膨張したFRBバランスシートの「正常化」は、まだ遠いことを示唆している。更に、債券を市中に売却して、ばらまいたドルを回収する「リバース・レポ」も試験的に行われている段階だ。

とにかく、市場にショックを与えないように、緩和マネーを回収する作業は容易ではない。

量的緩和終了→利上げ→緩和マネー回収の「量的緩和撤収作業」は、2016年の米国大統領選挙にまでもつれこみそうだ。

そうなると、最有力候補のクリントン女史とイエレンFRB議長の二人の女性に米国経済のかじ取りが委ねられる展開も視野に入る。

さて、今日の原稿は、アルゼンチン対オランダのワールドカップ準決勝見ながら書いたので、サッカーの例えが増えました(笑)。

しかし、今回のワールドカップで、私のサッカーに対するイメージが変わりました。

あれは格闘技だね。蹴る、押す、引っ張る、叩く。。。イエローカード覚悟で体当たりしてくる。これは、日本人、あるいはアジア人の骨格では、かなわないな、と感じました。日本はチームプレーとかフェアープレー賞とかいうけれど、パワーゲームだよ、あれは。

日本が本当に勝てるチーム作りするなら、日ハムの大谷とかゴルフの松山クラスの体格を持った男子を、数年計画で育成してゆくしかないのでは。監督も、なまじ日本受けするガイジンより、日本では嫌われるくらいのガイジンがいい。ザック・タイプよりトルシェ・タイプかな。これまでの日本の発想をリセットすべきと思いましたよ。

ワールド・カップ決勝はドイツ対アルゼンチン。

債権国と債務国の闘いか。。。

面白そう。

2014年