2014年7月31日
米雇用統計発表2日前という難しい時期に発表されたFOMC声明。無難な表現で切り抜けると思いきや、「2日後発表の雇用統計が良くても、利上げ時期の判断には影響を与えない」といわんばかりの明確な表現でイエレンFRB議長は自らの超ハト派姿勢を示した。
市場の立場からは、ここまで明確に表現してくれると雇用統計も読みやすい。
その「明確な表現」とは、「労働市場は失業率低下で改善した。しかし、労働市場の各種統計数字は、労働資源の活用が未だ極めて低いことを示唆している」との一節だ。
英語の直訳なので分かりにくいかもしれないが、意訳すれば、「まだ働きたい人は大勢いるのに、依然、希望どおり就職できず遊んでいる人材が極めて多い」ということ。ここで「極めて=significant」という形容詞までつけていることが特に注目されたのだ。
イエレンFRB議長が、ここまで明快に労働市場に関して厳しい見方を示したのには、それなりに雇用統計数字の裏付けがある。
・労働参加率は4月5月6月と62.8%で全く変わらず歴史的な低水準にある。
・平均時給も4月:24.33ドル、5月:24.39ドル、6月:24.45ドルと上昇が鈍い。
・不本意なパートタイマー(正規雇用希望)数も4月:746万人、5月:726万人、6月:754万人と、高水準にある。
従って、失業率が6.1%に低下しても、非農業部門新規雇用増加数が大幅に20万人を上回っても、「労働資源活用は極めて低い」との表現になるのだ。
更に、インフレ率に関しても、前回FOMC後の記者会見では、徐々に物価上昇率あるいはインフレ率が上昇傾向にあるが、それを「ノイズ=雑音」と一蹴した。
その後も、インフレ率は上昇傾向にある。
さすがに、イエレン議長も、この点は認めざるを得ず、今回のFOMC声明文では「インフレ率が(目標とする)2%を持続的に下回る可能性はやや低まった」と表現した。
ここでは「somewhat=やや」という形容詞が、いかにも「しぶしぶ認めた」という印象を与えている。誤解を恐れず書くとすれば、「頑固な」ハト派の本音が透けて見えた感じである。
なお、この声明文発表の前に4-6月期の米実質国内総生産(GDP)速報値が事前予測を上回る年率4%と発表されていた。しかし、声明文は、この件に何も触れず。いずれ、FOMC議事録要旨で明らかになろうが、厳しく見れば、4%のうち、1.7%は在庫増なので、実態は3%に満たずとも解釈できる。イエレン議長の見方では、まだ額面通りには受け取れない、ということになるのだろうか。
このイエレン議長の超ハト派ぶりに素直に反応したのが、米債券市場であった。
米10年債利回りは前日29日の引け時点で2.46%台だったが、GDP発表を受けた30日にはいきなり2.52%台で寄り付いた。その後、一時は2.56%にまで上昇したのだが、FOMC声明文発表後には2.53%台にまで急落したのだ。その後、再上昇しているものの、金利上昇の頭が抑えられた感は否めない。
ドルインデックスも、前日の81.3台から30日には一時81.6台まで急騰。しかし、FOMC声明文発表後には81.4台まで急落とめまぐるしい動きを見せた。
イエレン議長がドル全面高(日本から見れば円安)の頭を叩いた結果となっている。
そして、8月1日には米雇用統計。
ヘッドラインの失業率や新規雇用者数が更に改善しても、上記の「雇用の質」の部分は構造的要因に根差すので、月々の数字が大きく振れることは「極めて」考えにくい。
ヘッドラインの二つの主要雇用統計が悪く出れば、当然、利上げ遠のくと解釈されようし、良く出ても、FRBの緩和バイアスに変化なしとされよう。
雇用統計に振り回されてきた市場内に、イエレン議長の頑固さが、「安心感」を産んでいる。