豊島逸夫の手帖

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FRB前議長の「ここだけの話」

2014年10月7日

「私は、最近、住宅ローン借り換えを試みたが、不成功に終わった」
発言の主はFRB前議長バーナンキ氏。3日シカゴのシンポジウムで、モデレーターに「ここだけの話」との前置きで語ったことが、欧米メディアで報道された。主催は、シニア層に向け住宅・福祉に関する情報を発信する非営利法人。
「住宅ローンの借り入れ条件は厳しすぎる」とも発言しているので、即、ウオール街でも話題になった。8年間FRB議長を務めた後、今は、講演料一席20万ドル、著作契約は百万ドルといわれる。しかし、住宅ローン申請上は、単に「8年勤務後、現在は自営業」とされ、コンピューターにより自動的に撥ねられたようだ。「前FRB議長でさえ融資が受けられないから、一般人は個人信用ランクを維持するために、フェースブックにもうっかり個人情報を書き込めない」との市場関係者コメントが象徴的だった。
3日は、雇用統計好転に市場が揺れた日でもあったが、住宅分野は「過度な規制」「貸し渋り」などで未だ不安要因をかかえることが浮き彫りにされた感もあった。
それにしても、前・元FRB議長が、自由な立場になってからの「本音トーク」は興味深い。

グリーンスパン氏は、米寿に近い今も健在。彼の講演料相場は10万ドルといわれる。3日も米経済チャンネルに登場。「今は金融の歴史のなかでも未体験ゾーン。ここからどうなるか、誰も分からない」と語っている。18年間FRB議長を務め「金融の神様」といわれた人物に、「We really cannot tell」などとつくづく述懐されると、あらためて、FRB出口戦略が、「やってみないと分からない」こと。そして「利上げの時期はあくまでマクロ経済データ次第」と言い続けるイエレン現FRB議長の本音も「FOMCとしても未だ明確には分からない」ことを痛感させられる。

3日発表の雇用統計で、失業率は5.9%に下がった。
しかし、一年前のFOMC時に発表されたFRBの経済見通しでは、2014年10-12月期の失業率予測が6.4-6.8%のレンジに収斂していた。2015年10-12月期に5.9-6.2%とされていた。その当時は、「失業率が6.5%を下回ることが、FOMCでの利上げ検討開始の出発点」との「フォワード・ガイダンス」(将来の金融政策を明示すること)に、市場が揺れていた。
イエレン時代になって、このフォワード・ガイダンスは変更されている。
利上げ開始時期はあくまでマクロ経済データの出方次第、というが、実はFRB自身がマクロ経済データ予測を外している。要は分からないのだ。
3日発表の雇用統計も、リーマンショック時の2008年9月の雇用統計と比較すると、まだ「どうなるか分からない」部分が目立つ。

なんといっても、平均時給で表される賃金水準の伸びが、当時の21.80ドルから現在の24.53ドルまでにとどまる。労働参加率は当時の66.0%から一貫して下げ続け現在の62.7%に至る。そして、当時の失業率は6.1%。それが2009年10月には10.0%まで上昇後、現在の5.9%に下がっている。この部分は明らかに改善といえよう。しかし、当時のFF金利は1.8%。それが現在は限りなく0に近い水準だ。米10年債利回りも当時は3.7%。現在は2.4%台。この低金利現象が、ローレンス・サマーズ氏のいう「スタグネーション=長期経済停滞」によるのか。まだ明確には「分からない」。

イエレン氏にも計りかねることなのだろう。FOMC内部の議論も割れている。ウオールストリート・ジャーナル紙の名物FEDウオッチャー、ヒルゼンラース氏は、FRB開示情報から、イエレン議長が異例の多くの時間を「FOMCメンバーとの根回しミーティング」に割いていることを検証している。同氏は3日の雇用統計発表後の記事で、「これで利上げ時期が来年半ばから来年早々との見方が勢いづく」と分析・予測したが、その書き方は極めて慎重だ。

金プラチナはさすがに小反発。
かなり安値拾いの買いが出ている。
特にプラチナに。

2014年