豊島逸夫の手帖

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世界のマネー変調

2014年4月11日


10日の欧米市場は一転リスクオフ。震源地はウクライナというよりナスダックである。
フェイスブックなどITそしてバイオ関連銘柄に前日比4%以上の下げが並ぶ。ナスダック指数も、前日比下げ幅3%の攻防が続き、なんとか2.8%で下げ止まっていたが、大引け10秒前に3%を超えた。高頻度取引を象徴するような幕切れであった。


一方、米国債は買われ、10年債利回りはレンジの下限ともいえる2.5%目前の2.6%台まで下落。円も更に買われた。前日の円買いの要因はFOMC要旨で確認されたイエレン緩和継続であったが、10日には「逃避通貨」として円が買われた。
円高の景色も、日替わりで変わる。そして、金も「ウクライナ有事の金」ではなく、株からの一時逃避先として買われた。


ここまでは、典型的リスクオフの様相なのだが、欧州市場では、最たる「リスク資産」といえるギリシャ国債に市場が積極的な買い意欲を見せた。同国政 府は4年ぶりに国債発行を再開。5年債30億ユーロ発行に対して、200億ユーロの買い注文が殺到。利回りは4.95%で決まった。既発債の10年債利 も、ギリシャ危機時には30%を超えたが、10日には6%を割り込んだ。
たしかに、最悪の状況は脱したとはいえ、失業率26%、公的債務残高はGDPの1.8倍の国に10年間年率6%弱でカネを貸せるものか。そこで、5年間 4.95%なら貸せる、ということなのだろうが、「債券バブル」の匂いがしないでもない。そもそも、「安全資産」の代表格「米国債」と、「リスク資産」の 代表格「ギリシャ国債」が同時に買われるという現象は、投資のロジックから見れば非合理的に映る。
1-3月のMSCIワールドのパフォーマンスが0.8%、ナスダックのミニITバブル萎縮という状況では、マネーがグレートローテーション(債券から株へのシフト)に逆流するということか。
投資家のあくなきイールド(利回り)の追求がもたらした現象ともいえよう。同じくリスク資産のカテゴリーに入る新興国株も買い直されている。FRB低金利継続、ドル安局面の中で、ドル・キャリー・トレードが復活して、これらリスク資産が買われる現象も見られる。
米国債・円・金に逃げ込むマネーもあれば、ギリシャ国債や新興国株・通貨にベット(賭ける)マネーもある。グローバルなおカネの流れに明らかな変調が見られる。
もはや、単にリスクオン・リスクオフでは説明できない。
投資家のスタンスも多様化していることの現れなのだろう。投資対象も多様化している。


日本として注目したいのは、その投資媒体メニューの上のほうに日本株の文字も見えることだ。
欧米の機関投資家と話していると、極端な日本悲観論と、日本期待論が交錯している。
ギリシャ国債や新興国株を買う投資家たちは、日本株のリスクに対する耐性も強い。
世界的なマネー変調は、日本株にとって「禍転じて福となす」ことになる可能性をも秘めている。




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2014年