2014年3月4日
ウクライナ危機で、久しぶりにドル建て金価格が30ドル急騰。1350ドル台まで上がっている。但し、有事には円も買われるので、101円台まで円高が進行した結果、円建て金価格はグラム数十円上がった程度だ。
それでも、有事の金が買われたのは久しぶりのこと。
近年は、「有事のドル」あるいは「有事の円」が買われる傾向が強まっている。
とはいえ、リーマンショックや欧州債務危機という「経済有事」には金が買われている。
そもそも、「有事の金」は、米ソ冷戦時代に核戦争が起こった場合、最後に残るのは「金」であろう、との発想で1970年代に広まった考え方である。その頃のスイスでは、一般家庭が核シェルターを築き、その中に金地金や金貨が保管された。
しかし、ベルリンの壁が崩壊して、米ソ冷戦終焉とともに、「有事の金」も用無しとされた。メディアでは「有事の金は死語」といわれたものだ。
その「有事の金」が復活したイベントが、911米国同時多発テロである。株、債券、ドル、原油、全て急落する中で、金価格は270ドルから300ド ルまで急騰した。今の価格水準でいえば、130ドル程度の上げ幅である。メディアでは一転「有事の金復活」とはやされた。それ以来、金価格は2011年に 1932ドルの史上最高値をつけるまで歴史的上げ相場に突入したわけだ。
「有事の金」という言い回しは人の心を妖しく揺らす表現だ。
しかし、すわ戦争だ、有事の金だとはやされても、ホイホイ乗ってはいけない。
イラク戦争開戦直後には金価格が下がっている例もあるのだ。
その時は、半年前から「イラク開戦必至」と見た中東系ディーラーたちが、NY先物市場で、徐々に金を買い増していた。
そして、予想どおり開戦となった時、彼らは一斉に「利益確定の売り」に出たのだ。
これは「噂で買ってニュースで売る」という投機筋の常套手段だ。筆者が、スイス銀行で最初に叩き込まれた「先輩からの教え」でもある。
プロにしてみれば、「有事の金」に誘われて買いに入ってきた個人投資家は「飛んで火に入る夏の虫」。結局、個人はハシゴを外され、眠れない夜を過ごす羽目になる。
このエピソードの教訓は、有事の金は売りということ。
金は平時にコツコツ貯めて、いざというときに売って凌ぐものなのだ。
この本来の「有事の金は売り」を実践したのが韓国。
アジア経済危機のとき、極端な外貨不足となり、政府は国民に金製品を供出するよう呼びかけた。勿論、没収ではなく、ウオンとの「両替」である。その結果は、200トン以上の金が供出され、ロンドン市場で売却され、韓国政府は対価として米ドルを調達することができた。
個人のレベルでも、先祖代々引き継がれてきた「家宝の金製品」を、「家庭内有事」が勃発したとき、売って凌いだ、という例を時折耳にする。
くれぐれも、「有事の金」には惑わされないように!