2014年5月22日
ドル円のボラティリティーが高まってきた。
本欄で先週金曜日に200日移動平均線の101円10銭の壁をピンポイントで指摘した段階では、ジワリ円高進行という状況であった。しかし、昨日21日には、日本時間3時台の黒田総裁記者会見の間に100円80銭台をつけた後、6時間後に開いたニューヨーク市場では101円50銭台まで反発した。長らく膠着状態が続いたドル円市場に明らかに投機マネーが戻り始めた兆しである。
円反落のキッカケは米国債利回りが21日には2.54%台にまで反騰して、短期的に日米金利差が拡大したことであった。
そしてNY時間午後2時(日本時間22日朝3時)に、前回のFOMC議事録が公表された。
結論から言えば、サプライズは無し。
未曽有の量的緩和政策からの出口戦略の具体的方法が論じられたが、金融引き締めへの移行は急がず、との総論であった。
但し、タカ派の旗頭ともいえるフィラデルフィア連銀プロッサー総裁は20日の講演で「利上げは、遅きに失するより早いほうが良い」と明言しているので、はからずも、FOMC内の亀裂が浮かび上がることになった。
なお、FOMC議事録によると、FRBのバランスシートが4.3兆ドルに膨張する状況下での金融引き締めの各論がさまざま論じられたようだ。
通常、利上げの際には、FRBが銀行への資金供給を減らして、金利が上がるようにする。
ところが未曽有の量的緩和政策の結果、米国の民間銀行がFRBに預けている「準備預金」は2.6兆ドルに達する。ここまでマネーがだぶつくと、民間銀行への資金供給を減らすことで金利を上げることは難しい。そこで、徐々に準備預金を減らしてゆく方策が議論されたのだ。
いずれにせよ、なんらかの方法で米国の金融は引き締めに移行する。問題はタイミングだ。今年の利上げは考えられず、おそらく来年中となろう。
そうなると米国は当面緩和継続なので、ドル円は円高基調がしばらくは継続しそうだ。
しかし、来年にまで視野を広げれば、利上げによりドル高、円安の長期トレンドに戻ることになろう。
貴金属価格も、足元では円高の影響が国内では強まっている。
それから昨日午後、臨時に書いた原稿も以下に載せます。↓
黒田総裁、円高牽制せず、円高100円台に進行
注目の記者会見で、黒田日銀総裁は、円高について、「海外要因」の影響も指摘し、金融政策は為替と一線を画すことを確認した。更に、ドル長期金利低下傾向についても、「FRBの政策の進め方を市場が理解」と語るにとどめた。
総じて、日銀が円高を容認せざるを得ない状況とも解釈できることから、記者会見中に円相場は一気に200日移動平均線を突破して、100円台まで急騰した。チャート的には中期的円高トレンド入りの様相が強まっている。但し、200日移動平均線は「だまし」も多いので、注意が必要だ。
なお、今週は今後も以下の重要な材料が待ち構えている。
1)FOMC議事録(21日)(4月29日・30日分)
まず次に注目されるのが、前回FOMCの議事録公表だ。
イエレン新FRB議長の緩和継続路線に対して、タカ派の両巨匠といわれるプロッサー・フィラデルフィア連銀総裁やフィッシャー・ダラス連銀総裁の発言内容が明らかになると、市場にインパクトを与える可能性があるので要注意である。
2)中国PMI(22日)
昨年「5.23」株急落の引き金となった中国の経済統計だけに注目度は高い。特に、前月まで4ヶ月連続で、景況感の境目となる50を割り込んでいる。この傾向が続くと、中国経済への不安感が市場のリスクオフを醸成する。19日には突発的に、「米、中国軍5人をサイバー攻撃スパイ容疑で刑事訴追」という新たな米中関係の火種も出て来た。リスクオフの円買いが出やすい地合いといえる。
3)ウクライナ大統領選挙(25日)
週末にウクライナ関連のイベントを控えているので、23日金曜日には、円売りポジションを手仕舞う動きが見られるだろう。特に、円ショート(売り持ち)、ドル・ロング(買い持ち)のポジションをかかえるファンドには「気持ち悪い」週末となりそうである。
このような市場環境の中では、いきなり95円などの円急騰は考えにくいが、99円台程度は想定内のリスクとして認識しておく必要がありそうだ。