2014年9月18日
やはりタカにはなれなかったハト。今回のFOMCににじむイエレンFRB議長の姿である。
米国マクロ経済統計の改善傾向が顕著なれど、「労働力は未活用部分が多い」。利上げは急がず「相当期間」待つ。
ジックリ経済実態を見極めたうえで利上げを開始するが、一旦利上げが始まれば、最終目標2017年4%前後に向けて粛々とFFレートを上げてゆく。
その利上げペースは、今回も発表されたドット・チャートから読み取れる。あくまでFOMC参加者個人の金利予測の集計という但し書きつきだが、主な部分は下記のようになる。
2015年 | 1%未満 6人 | 1-2% 10人 | |
2016年 | 2%未満 3人 | 2%以上3%未満 7人 | 3%以上4%まで 6人 |
2017年 | 2%以上3%未満 2人 | 3%以上4%未満 11人 | 4%以上4.5%未満 4人 |
ここから読み取れる利上げペースは、2015年については0%から2%のレンジでかなり意見が割れている。そして2016年から2017年にかけて2%前後から4%近くに切り上がってゆく。即ち、利上げ開始時点ではFOMC内部での意見調整に時間がかかる。(今回も本欄でタカ派の巨匠と呼んできたプロッサー・フィラデルフィア連銀総裁とフィッシャ―・ダラス連銀総裁の二名が早期利上げを主張との反対意見が明記された。とはいえ、この両氏の投票権は今年末まで。来年からはウイリアムズ・サンフランシスコ連銀総裁とロックハート・アトランタ連銀総裁が新たに投票権を持つ。この両氏はハト派、との読みもイエレン議長にはあろう。)しかし、コンセンサスがまとまれば、従来FRBが目標値としてきた4%に向けてジリジリと金利が上がってゆく、というシナリオである。
スタートラインでヨーイドンの号砲を今かと待たねばならないが、スタートを切れば、あとは想定通りのスピードでレースが展開される、とでもいえようか。
なお、今回のドットチャートのフォーマットで注目される変化が一つあった。それは金利の目盛(縦軸)が従来の1%刻みから、0.25%刻みとなり、なおかつ、ドットが0.125%刻みで表されていることだ。これは、一回の利上げペースが、0.125%という細かい数字になることを示唆している。歩数が多い早歩きのペースという印象だ。決して、ダッシュとかランニングなどのイメージではない。
ここまで予想される利上げの実態が明らかになると、まず債券市場は米国債が売られる。10年債利回りは一時2.3%台にまで沈んだが、2.6%台を突破した。年初、市場で想定された3%も徐々に視野に入ってくる。
この予想される金利差拡大を受けて、外為市場ではドル高・円安が進行。108円を突破した。個人的な印象だが、結果的には、あたかも黒田日銀の追加緩和を打診するかのようなFOMCとなった。
株式市場は、利上げは警戒材料なれど、そもそも金利を上げても、米国企業業績は耐えられるという自信の表れでもあるので、長期的には好感される材料となろう。いきなり利上げとか、急ピッチで金利が上昇することが、最も懸念されるところだが、その可能性は極めて薄くなったといえる。
そして、商品市場ではドル高を映し、金が生産コスト(1205ドル)ぎりぎりの1220ドル台まで売り込まれた。
なお、今回のFOMCで明らかにされた「出口戦略」は、「過剰流動性時代の新型金融政策」といえる。
リーマンショック前までは、銀行システム内の流動性はさほど過剰とはいえず、基本的に銀行は時折資金をFRBから調達する必要性もあった。そこで、政策金利(FFレート)も、民間銀行が短期金融市場で調達する金利をFRBが高めに誘導すれば、利上げができた。
しかし、未曽有の量的緩和政策の結果、いまや民間銀行は約2兆6千億ドルもの資金を「超過準備」としてFRBに預託している。こうなると「マネーの流通速度」というより「準備金の流通速度」が問題となる。そのような巨額のマネーを誘導するには、超過準備預金の金利を上げることで、市中から資金を引き揚げるしかない。更に、銀行システムの外にも巨額の資金が、特にMMF(マネーマーケットファンド)を通じて流通するようになった。そこで、FRBが大量保有している米国債を担保にMMFから資金を回収するという新たな市場を拡大することで、そこでの貸借金利を誘導するというリバース・レポという新手法も「試験運転中」だ。
未曽有の量的緩和という「壮大な実験」の幕引きには、これまた「壮大な実験」ともいえる新金融政策手段が必要なのだ。
膨張したFRBの資産規模を放置すれば、いずれマネーが暴れ出すインフレの可能性をはらむ。そこで、できるだけ穏便に過剰マネーを回収しつつ、金利を引き上げねばならない。そこで、FRBはフィシャー副議長のもとに、バブルを防ぐためのチェック機能をもたせた委員会も発足させる。いわば、新金融政策のお目付け役とでもいえる存在となろう。資産バブルを回避しつつ、過剰流動性を回収するというプロセスに一抹のリスクも感じる。金融機関への監視強化・財務体質改善のための政策(マクロ・プルーデンシャルと呼ばれる)もイエレンFRBに課せられたもう一つの政策目標なのだ。
総じて、新たな金融政策と、それを実行するFRBのスタンスがかなり明らかになったFOMCであった。
現地NY市場では、円売り・ドル買いが「最もホットなトレード」とされる。
今日の写真はNYでの仕事中のメーキング風景から。
NY連銀前の路上でカメラを確認している女性が、吉野菜穂子日経CNBC敏腕プロデュ―サー。そしてジムロジャーズと対談。江連裕子さんの後の私の相方は佐久間あすか日経CNBCキャスター。ジムは撮影のとき、「おいおい、今日ここで私にとって一番大事な人はカメラマンさんとメークさんだよ。ちゃんとうまく撮ってね!」とジョークを飛ばす。私も実感だけどね(笑)。