豊島逸夫の手帖

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中国現場の空気を吸っていないから投機筋に振り回される

2014年5月12日

今日は、まずギリシャ国債の話、そして中国の話。
10年債利回りの国際比較してみると、このようになる。

ギリシャ 6.1%
イタリア 2.9%
フランス 1.9%
ドイツ 1.4%
英国 2.6%
米国 2.6%
日本 0.6%


このように各国国債10年物の利回りを比べてみると、筆者には財政破たんしたギリシャに10年間6.1%でカネ貸す人の気が知れない。
イタリアに2.9%も同様だ。
総じて、国債の利回りが低いということは、それだけ買われて債券価格が上昇しているのだから、やはり「債券バブル」というほかなかろう。
そんなことを考えていたときに、ニューヨークのファンドでギリシャ国債の新発5年債を買ったという人と話する機会があった。 その人の話を聞いていて、ピンときたことは、要は、ECB(欧州中央銀行)ドラギ総裁もいずれ量的緩和に踏み切らざるを得ないと市場が読む表れ、ということだ。
ユーロ高になやむユーロ圏の金融舵取り役としてはユーロ安にして輸出競争力を高めることが最優先課題だ。
でも、あと0.25%、最後の利下げをしてゼロ金利になれば、残る政策手段は限られる。やはり、日米同様に量的緩和するのではないか、とたしかに考えられよう。
その場合の問題はどこの国の国債を買うか、ということだが、ユーロ圏各国の国債ということになれば、そこにギリシャが入っても不思議はなかろう。
ECBがいずれ買いに入るのであれば、いまのうちから買っておこう、とヘッジファンドが考えることも納得がゆく。
振り返れば、ギリシャ10年債利回りは、最悪の2012年には30%を越えていたのだ。そのドタバタのなかで、ギリシャ国債を買うファンドもあった。その 後の回復過程でも、同国債を買い続けて大儲けしたファンドもある。その勢いで、まだ買い続けているのだろう。勝てば官軍である。
でもギリシャには未だデフォルトのリスクがあるのでは、と問うと、
さすがに10年債なら考えられるが、5年債であれば、まずEU,ECBが、そうさせない、あるいは、そうならいように渋々追加的に資金援助せざるを得まいとの読みであった。
ギリシャにデフォルトされれば、またぞろユーロ危機再燃に発展は必至だからだ。そこで一番困るのは(皮肉にも量的緩和に反対している)ドイツだろう。
市場の動きは理屈通りにはゆかない、という例である。


日本人としては、ギリシャ国債買うのであれば日本株も買ってみたら、とも言いたくなるが。あるいは金でも買ったら、とも思うが。
新興国から流出した過剰流動性が、世界に拡散して、「循環物色」しているのだ。
だから、いずれ、日本株や金にも廻ってくる。
但し、循環物色マネーは「浮動株主」だ。
やはり、アベノミクスが成功の事例を示さなければ、「安定株主」とはならない。
金は、米国利上げという禊を経て、その後に持続性のある上昇軌道に乗るだろう。


金については、中国需要弱気論が材料視されているが、これはファンドが売りの口実に使っているだけ。
今年、前年並みで増えない、といっても、年間1000トン程度の高水準から若干減るかも、ということだ。
これまで、毎年増加してきた中国年間金需要が、こんなハイペースで続いたら、すぐに年間金生産量の半分を一国で買い占めることになってしまう。いくらなんでも、ピッチが早すぎる。しかも、本欄で繰り返し指摘したように、投機目的の「仮需」も多かった。
その長期増加過程で、一休みあって当然だと思う。
筆者は自身の体験で、現地の投資家たちが、現物派と投機派のセグメント化してゆく過程を実際に見てきた。
それを単に数字だけで外から判断するから、投機筋に振り回されるのだ。
中国の金輸入が急増した昨年、しきりに「中国人民銀行の金購入説」が語られた。そのなかで、筆者は、金が銅と同じく投機目的で輸入されていることを現地で見てきたので、流通在庫が膨張していることを指摘してきた。
同時に、中国の民間金購入といっても、北京、上海、深せんなどの海岸部の大都市圏に集中しており、これから内陸部で増えてゆく過程にあることも現地の銀行のアドバイザリーとして見てきた。
中国人の金選好が変わることはない。
ただ、そこに投機的な売買が増えただけの話である。
どこの金市場にも発展段階があり、徐々に、現物からデリバティブ、ETFと裾野が拡大してゆくものなのだ。
それらが食い合うのではなく、新規参入でパイが大きくなってゆくところに中国金需要の底堅さがある。
彼らは、ニューヨーク市場でイエレン発言などにより1250ドルを割れるのを待っている。
中国人民銀行が、円安に対抗して人民元安を志向し始めたことも、投資家の人民元建て金価格上昇期待を醸成している。

2014年