2014年2月3日
今週号の日経ヴェリタスから、新コラム「逸'sOK!」
を始めました。
初回は新興国不安について。
コラムは月1回くらいの掲載になります。
今日の原稿は、そのヴェリタス記事の続編みたいな感じです。
新興国不安を読む二つの勘所
いよいよFRBが新議長のもと新体制となる今週、早くもイエレン氏を二つの試練が待ち受ける。
一つは、10日発表の米雇用統計。
しかし、これは金曜日なので、それまでは、二つ目の新興国不安が主として市場では材料視されよう。
そこで、新興国波乱の今後を見る勘所をおさえておこう。
まず、「通貨安」のメリット=コモディティー輸出収入増、輸出競争力向上とデメリット=輸入インフレの両面を考慮する必要がある。
商品輸出依存度が高い所謂コモディティー通貨国では、メリットも無視できない。南ア、インドネシア、そしてロシアが、この範疇に入る。
ロシアを「新興国」として扱うか否かには異論もあるが(UNCTAD国際貿易連合開発会議は「過渡国」と別分類している)、通貨ルーブルは新興国不安のあ おりで対ドル、対ユーロで5年ぶりの安値に急落した。しかし、同国財務大臣は1月29日に、「我が国は、トルコなど新興国の利上げに追随すべきではな い。」と述べている。原油と天然ガス輸出が国家歳入の5割以上を占めるからだ。経常収支もなんとか黒字を保っているので、外貨流出は懸念だが切迫感は相対 的にせよ薄い。ロシア中央銀行は、ルーブルがフリー・フォール(暴落)ともなれば市場介入も辞さずの構えで、利上げも検討中といわれるが、性急に動く気配 は感じられない。
とはいえ、極寒の国ゆえ、冬季の生鮮食料品は輸入に頼らざるを得ず、通貨安による日常品価格上昇は、市民の生活を直撃している。
プラウダ紙は、「国民は貯金の30-40%はドルやユーロで持つべき。但し、タンス預金ではなく、銀行預金で。」と呼びかけている。
インドネシアも、経常収支赤字の対GDP比が2013年には3.6%、2014年には3%までの縮小が見込まれる。
南アは、基幹産業の鉱山セクター(プラチナなど)にとって、ランド安がインフレを通じてコスト増要因にもなる。失業率が25%を超すので、雇用と物価安定のデュアル・マンデート(二つの政策目標)達成が困難を極める。
対して、内需の寄与度が相対的に高い国(インド、ブラジル、トルコ)では、通貨安=輸入インフレのデメリットのほうが大きい。中央銀行の通貨防衛のための利上げも大胆である。
外資流出を招いた米国量的緩和縮小にも批判的である。
1日付け日経コラム「円買い、株安と新興国不安が背中押す」で、インド準備銀行のラジャン総裁が、米国の量的緩和縮小政策について、「他国に与える影響も考慮すべし」と批判的な見解を述べていることを紹介した。
新興国側の言い分はこうだ。金融危機後は、先進国の経済回復局面で、新興国の積極財政・金融緩和が貢献した。今度は、新興国経済変調に対して先進国がサポートする「国際協調」が考慮されてもよいのではないか。
「通貨安競争」が一転「通貨高競争」かのごとき様相でもある。
次に、新興国不安をマネー目線で読むと、ホットマネーと長期マネー(直接投資)を弁別する必要がある。
先述の1日付け日経コラムでは、1月の新興国マネー流出が、株式ファンドで122億ドル、債券ファンドで46億ドルに達したことに言及した。総額、円換算で1兆7千億円ほどの規模である。
この「ホット・マネー」の動きに対して、長期マネーの代表格「外国直接投資(FDI)」のカテゴリーでは投資先として新興国が依然主流である。 UNCTADに拠れば、2013年のFDI世界総額1.46兆ドルの中で、ロシアを含む新興国が6割以上を占めるという。新興国不安が顕在化した昨年で も、特に年後半に、ホットマネーの急減に対し、FDIの高止まり傾向が鮮明だ。
国別投資先で目立つのは、ロシアが2012年の9位から、2013年には3位に躍進していることだ。中国も米国に次ぎ2位だが、香港を含むグレート・チャイナとすると、1位となる。
フローのホットマネーは流出顕著だが、長期マネーは流入ペース鈍化の可能性はあるが、ストックとして累積してゆくだろう。
インド準備銀行 筆者撮影