豊島逸夫の手帖

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「5.23」ショック後の一年、再来はあるのか

2014年5月19日

早いもので、今週金曜日には歴史的株急落の「2013年5月23日」から一年を迎える。
あの日、15,942円の高値をつけた日経平均株価は14,483円まで急落を演じた。
そして一年後。同株価は14,000円台の攻防局面にある。
更に、円相場もあの日は円高が進行して101円89銭(午後4時)をつけていた。
そして一年後。やはり円高がジワリ進行して101円台半ばの値位置にある。
「5.23」株急落の引き金を引いたのは中国の5月の製造業PMI(購買担当者景気指数)が、景況感の境目となる50を7ヶ月ぶりに割り込んだことであった。
そして、今週も22日に5月の中国PMIが発表されるが、前月まで4ヶ月連続で50を下回っている。
更に、昨年5月21-22日には日銀政策決定会合が開催され、黒田日銀の「異次元緩和」が確認されていた。
そして、今週も20-21日に同会合があるが、市場は「もしかしたら」との淡い「追加緩和期待」を抱きつつも、大勢は現状の政策維持を見込んでいる。
唯一、債券市場の長期金利だけが、当時は一時1%を超える乱高下を演じていたが、現在は0.5%台後半で推移している。
日銀による超大型国債購入という未曽有の事態に戸惑いを隠せなかった債券市場も、徐々に慣れてきたわけだ。
この市場の「慣れ」の症状は、麻酔のごとく、更に強い「追加緩和」への依存症へ進行しつつある。


このように振り返ると、結局、この一年は「失われた一年」だったのだろうか、という素朴な疑問も生じる。
それとも、やはり「調整局面」が一年続いているのだろうか。
実態を見れば、虚しさは否めない。
あの日、16,000円台に接近した段階で、オプション市場で16,000円コールが一斉に売られ、先物がヘッジ売りで急落した。
その後も、市場は乱高下を繰り返してきたわけだが、実態を見れば、日経平均先物を「場」として海外投機マネーがボラティリティー(価格変動率)の高い相場 展開を形成してきた。数社の欧米投資銀行が発注する大量の先物売買が飛び交う「空中戦」に、一般投資家が振り回されてきた一年といっても過言ではなかろ う。HFT(高頻度取引)も、急騰急落局面では、変動幅を増幅させる要因となった。
この市場の実態を見る限りでは、「ゼロサムゲーム」に終始した虚無感だけが残る。


しかし、この一年で、日本の株式市場にも構造的変化の兆しが見えつつあることも事実だ。
まずは、なんといってもNISAの導入。開設口座数が急増したところで、いよいよ売買の稼働を開始する本番はこれからだ。
そしてGPIFのリスク資産への運用増加議論が進んだこと。
いよいよホットマネーに加え、リアルマネー参入に向けて、少なくとも、道筋だけは見えてきた。このシナリオが順調に展開すれば、この一年は値固めの「調整局面」だった、ということになろう。
2020年東京五輪決定という大型材料も出た。そして、消費増税も第一段階はなんとか持ちこたえている。
しかし、10%への第二段階へのハードルは高い。日中関係も悪化した。
海外を見れば、そもそも「5.23」株急落の背景となった「米国量的緩和縮小」の引き金を引いたバーナンキFRB議長に代わり、イエレン氏が登場した。新 FRB議長の金融政策運営方針は、「量的緩和を粛々と縮小・終了させるが、引き締めへの転換は急がず2015年以降」と緩和継続の姿勢を滲ませている。


日本の株式市場にとって悩ましいのは、イエレン氏の緩和継続姿勢が強まるほど、米ドル金利も低下して、日米金利差縮小により円高トレンドが強まることだ。
今年、もし「5.23」ショックの再来があるとすれば、震源地は外為市場。円高が進行して100円の大台を割り込むケースであろう。
そのドル円相場は、今、まさに重要な分岐点に接近中だ。
その仔細は、前回の本欄「米国債変調、101円10銭の壁に注目」に詳述した。中期的な円高トレンドに入ってしまうか否かが試されている。
「5.23」ならぬ「5.25」にはウクライナ大統領選挙という地政学的リスクが控えており、相対的安全通貨として円が買われやすい地合いにもある。
この流れを変えられるのは、黒田日銀総裁の「なにか一言」か。「追加緩和」まで踏み込まなくても、市場の安堵感を誘うような表現あるいは黒田総裁の得意とするプレゼンテーション演出だけでもいい。市場はセンチメントで動く。
なにも「追加的ニュアンス」なしで日銀政策決定会合が終わり、中国PMIは好転せず、中国経済とウクライナの不安要因が共振現象を引き起こし、安全資産と される米国債が更に買いこまれてドル長期金利2.5%割れが常態化すると、円高・株安のこれまた共振現象が起きてしまう可能性がある。
「追加緩和」という切り札のクローザー投入の前に、中継ぎが踏ん張れるか。
ゲームは7回裏の様相である。


さて、昨日の日経朝刊一面に「総合取引所即刻実現へ、自民提言」との記事が載っていました。
要は、経産省、東京商品取引所の抵抗に対して、官邸主導で力づくでも実現させる、という段階です。
本欄で予測したとおりの展開になっています。
これが欧米金市場の辿ってきた道でもあります。
日本だけが特異な業界構造だったのです。
現物業者は金地金、金貨、純金積立、銀行証券は金ETFという棲み分けが進むでしょうね。先物は日本取引所の大証がデリバティブ取引のコアになるので、そこに集約されてゆくでしょう。


週末は、東北の新緑を満喫しました。
青空をバックに濃淡さまざまな緑が映えて、ホントに爽快でした。
帰り道では、産地直売の新鮮野菜をいっぱい買い込みました。これが、なによりのお土産だね。何とか饅頭とか、しょうもないお菓子より、都会のスーパーでは買えない朝採れ野菜が一番嬉しい。ブロッコリなど、茹でて食すると、新鮮でコリコリの食感が心地いいね~現地の人たちには当たり前のことでも、私には最高の贅沢です。

2014年