豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. 一転108円台まで円反騰の真相
Page1703

一転108円台まで円反騰の真相

2014年10月2日

10-12月期の初日、NY市場はリスクオフで始まった。
市場の不安を示すVIX指数は、先週末の14台から、1日には一時17台を突破している。
香港騒擾、イスラム国懸念、欧州景況感悪化、9月米ISM製造業指数が59.0から56.6へ急落など、市場の悪材料が共振現象を引き起こした。米国内で初のエボラ熱患者発生まで大きな株価下げ要因とされたことが、市場センチメント悪化を象徴している。
マクロ経済データも、悪い数字は素直に悪材料にされ、良い数字は「早期利上げ」の可能性を高める警戒材料にされる。
また、2日にECB理事会、3日に米雇用統計と今週の二大イベントの前にポジションを手仕舞う「リスク回避」の動きが一気に噴出したともいえる。
リスクオフにより、「安全資産」とされる米国債が買われ、10年債利回りは再び2.3%台にまで急落した。
金価格も1200ドルの大台ギリギリまで下がったところで、一転1220ドル台を回復する局面もあった。
同じ商品でも景況感に敏感な原油価格は下げが止まらず、WTI先物は90の大台攻防の様相だ。
貴金属セクターでも金は反騰したが、自動車産業用素材のプラチナは下落。典型的なリスクオフの症状だ。

そして、外為市場ではアジア時間に110円をつけ円安が進行した後、NY時間では一時108円80銭台まで円高に転じた。
相対的に「安全通貨」とされる円にマネーが流入する動きが顕在化とされる。しかし通貨価値が急速に安くなっている通貨が、マネーの逃避先とされることはいかにも不自然。これは「後講釈」の類といえよう。
円反騰の実態は、円売り志向のヘッジファンドが、前述の二大イベントの前に、利益確定を急いだことにある。
通貨投機筋の円売りポジションは急膨張した。今や、買戻しのタイミングを虎視眈々と狙っている地合いでは、手仕舞いの連鎖が生じやすい。
筆者は9月29日時点で書いた本欄「歴史的ドル高の予感」の中で、ヘッジファンドのターゲットが110ドルから115ドルに切り上がっていることを指摘した。その後、110ドル突破前後から専門家の見通しが相次いで115円以上まで切り上がったところで、したたかなヘッジファンドは、円買いに動いたわけだ。
市場関係者の多数が同方向を向くと相場は逆に動くという典型でもある。
「110円突破」の噂の段階で円を売り、ニュースとなった時点で円を買い戻すという「噂で売って、ニュースで買う」という手口の例である。
ちなみに、著名投資家ジムロジャーズ氏と今朝チャットしたが、円はショートしていない(I am not short Yen)という答えであった。しかし、日銀量的緩和が続く限り「なんでも起こり得る Anything can happen」とも語っている。

個人投資家は、メディアが110円突破を囃すとき、リアルタイムの円相場が108-109円台を示していることに、かなりの違和感を覚えると思う。
しかし、大事なことは、短期筋の荒っぽい動きに翻弄されず、市場の底流を見極めることだ。
今の市場はコンピューター・プログラムによる高頻度取引が席巻する。9月29日時点で円売りを加速させていたファンドが、10月1日には、円買いを加速させる。とはいえ、円売り攻勢を繰り返すヘッジファンドの目線は高い。依然115円を見ている。
今回の歴史的ドル高現象を産んだ「日米欧金融政策の方向性の違い」*という構造要因は、この3日でいささかも変わっていないのだ。

脚注*
米国は量的緩和終了、日本は量的緩和最盛期、欧州は量的緩和検討中という金融政策方向性のdivergence(差)。

さて、今日の写真は、洗足池マガーリで食したイタリア直送のポルチーニ茸のグリル。独特のイタリア秋の風味を生で感じる。余計なソースなどかけずに熱の通し方が抜群の一品でした。

1973a.jpg昨晩は「娘」のお誕生会だったので、シェフとマダムがお祝い特製デザート出してくれました。

1973b.jpg

2014年