豊島逸夫の手帖

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米量的緩和終了後の利上げ

2014年5月21日

米量的緩和終了後の利上げは、外為市場ではドル高要因、そして日米金利差拡大による円安要因。。。のはずであった。更に、債券市場では米国債売り要因となるのが「市況の法則」であった。
しかし、20日の米国市場では、二人の地区連銀総裁が「利上げの具体論」「利上げの早期実施」を講演で述べたことで、外為市場では円高に振れた。米国10年債は再び買われ、前日戻した利回りも再び2.5%ギリギリまで低下した。

なぜか。


マーケットは金利差よりリスクを重視したのだ。
円がリスクオフで買われた。そして米国債は「安全資産」として買われたのだ。(ドル円は先週金曜本欄に示した101円10銭の壁にピンポイントで突き当たり、同水準の攻防が続いている。ここが正念場だ。)
特に、市場が注目したことは、二人の地区連銀総裁がハト派とタカ派の代表格であることであった。まず、ハト派代表のニューヨーク連銀のダドリー総裁が、利 上げを含む出口戦略の具体的手法につき詳細に論じたこと。これはサプライズ感があった。次に、ダラス連銀フィッシャー総裁とともにタカ派の両巨匠といわれ るフィラデルフィア連銀のプロッサー総裁が、持論である「利上げ早期実施論」を改めて講演で語ったこと。これはダメ押し的効果を市場に与えた。

マーケットは当惑した。

イエレンFRB議長は緩和継続を強調するが、このように地区連銀総裁からは不協和音が聞こえてくる。FOMC内部亀裂を垣間見た市場は、金融政策不安から生じるリスクに敏感にならざるを得ない。。
株式市場にしても、利上げ懸念もさることながら、金融政策の先行きが見えないことでリスクオフに陥っている。


既に、特にITセクターに関して、高値からの反動による「バブル懸念」が強まっている矢先でもあった。著名ヘッジファンドの「警戒発言」が続いたこ とも、リスクオフを醸成していた。最近の例でいえば、影響力の強いデビッド・アインホーン氏は「この15年で2回目のハイテクバブルが生じつつあることに 明らかなコンセンサスがある」と明言した。また、ラスベガスのヘッジファンド・コンファレンスでは、今年トップクラスのパフォーマンスを叩き出している ヘッジファンドのテッパー氏が「米国株をショート(空売り)せよとまでは言わないが、大きく買い越すべきではない。」と基調講演で語ったことがウオール街 で話題となった。
その結果、株から債券への「グレート・ローテーションの逆流」が20日には加速した。FOMCメンバーの利上げトークにもかかわらず、米国債が買われるもう一つの背景である。


かくして海外市場では、金融政策への不安感から円が買われるという展開の中で、本日の黒田総裁記者会見への注目度は更に高まっている。
既に、市場の関心は「追加緩和」から「円高牽制発言あるか」に移りつつある。加えて、日銀の金融緩和政策にブレが「微塵もない」くらいの発言で、内部亀裂が見え隠れするFRBとは一線を画すことも重要となろう。
更に、今週の注目イベントの中のFOMC議事録が本日NY時間に公表されるので、益々切迫感を持ってその議事内容が精査されることになろう。

2014年