2014年5月9日
リーマンショック後の金融危機を乗り切るために、FRBは未曽有の量的緩和政策を続けてきました。巨額の国債やMBS(住宅担保証券)を購入して、 その対価として巨額のドルを市中に供給してきたわけです。その結果、FRBのバランスシートは購入した債券で膨れ上がり、その額は4兆ドルを超えていま す。
これについてバーナンキ前FRB議長は「リーマンショック後の有事対応で実施した非伝統的金融政策ゆえ、米国経済が平時に戻れば、元に戻す」と語っていました。
しかし、市場では、「どうやって元に戻すの?買い集めた国債やMBSを逆に売って、その対価としてドルを受け取るかたちで、民間に溜まった過剰流動性(過 剰マネー)を回収するわけ?でも、民間で買い手がつかなければ、安値で叩き売るしかないでしょう。債券が安値で叩き売られると、債券価格が下がり、金利は 逆に急騰してしまいますよ。」という疑問がつきまとってきました。
その質問が昨日の米議会でのイエレン議会証言の質疑応答でも出たのです。
答えは「4兆ドルに膨張したFRBのバランスシートをリーマンショック前の8000億ドルの水準に戻すには、5年から8年はかかる」というものでした。保有している債券類が徐々に満期を迎え償還されてゆくことで、徐々に減ってゆく、というわけです。
今後、米国経済が成長軌道に安定的に戻れば、そういう気長なプロセスでバランスシートのスリム化を図ることもできるでしょう。
しかし、仮に、米国経済が再びなんらかの経済ショックに見舞われると、そんな悠長なことは言っていられなくなるでしょう。
この点については、今後、イエレンFRBが、実際にどのように後処理してゆくのか、未だ疑問符がついたままです。
イエレンさんは、前任者バーナンキさんが実施したQEの後始末をせねばならない役回りになっているのですね。
イエレンさんの基本的スタンスは、米国経済が成長を続ければ、過去の借金も返せる、ということです。昨晩も、その旨、発言していました。
市場の視点にたつと、「緩和期待」で中央銀行がおカネをばらまくのは歓迎だが、その後始末のことなど考えたくない、というのが本音でしょう。
でも、借金は消えません。
実はクロダ日銀も、バーナンキさんと同じことをやっているわけで、その後始末のことは日本人にとって決して他人事ではないのです。
まぁ、金の世界から見れば、同じ貯めこむなら、国の借金証文=国債より、誰の負債でもないといわれる「金」のほうが、安心感がありますよね。
尚、昨日は、ECB(欧州中央銀行)のドラギ総裁が、ECB理事会後の記者会見で「来月にはうちも更なる金融緩和に踏み切るかも」とかなり具体的な発言をして市場を驚かせました。
「来月」と、これまでにない、明確な時期を表現したからです。
欧州諸国にしてみれば、辛い緊縮に耐え、やっと経常収支が黒字になり始めたところに、ユーロ高。これは円高と同じで、輸出産業を直撃します。ですから、 ECBとしては、ギリシャショックからの回復を確かなものにするためには、ユーロを安くしたいわけです。その為には、現在の0.25%というユーロの政策 金利をゼロに引き下げることは、手っ取り早い通貨安政策になるのですね。
ただ、それだけでは不十分だろうから、ECBもついに量的緩和に踏み切るのか、との観測も根強く流れます。しかし、ユーロ圏の場合は、どこの国の国債を購入するのか、という問題が残るのです。簡単ではありません。
ですから、昨晩もユーロは売られて下がったのですが、まだ依然、高い水準にあるのです。