豊島逸夫の手帖

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欧州も量的緩和導入観測強まる

2014年8月26日


「ジャクソンホールで最もサプライズ性を秘めているのは、現地時間金曜午後に予定されているドラギECB総裁の講演だ。欧州経済が停滞色を強める中で、ECBにも日米型本格的量的緩和を求める声が日増しに強まっているからだ。」


22日付け本欄にこう書いた。
そして、ジャクソンホール終了後の25日。欧米市場では「ドラギ氏、講演で量的緩和示唆」との解釈が市場を揺らせた。「ジャクソンホールでは、ドラギ氏がイエレン氏より存在感を示した」との評価が目立つ。
まずマーケット面のほうから見ると、ユーロ売りが加速し、欧州株が買われている。
ユーロの対ドル・レートは、6月のECB理事会前後の1.36台から、直近の1.31台にまで一貫して下げ続けている。
欧州株はドラギ発言を好感して上昇。NY市場でのS&P500株価指数2000超えの下地を醸成した。


さて、そのジャクソンホールでのドラギ講演のサプライズを詳しく吟味してみよう。
ポイントは、欧州中央銀行総裁が、積極財政と金融緩和のポリシーミックスを唱えたこと。
中央銀行総裁が公的な場で、しかも中央銀行のシンポジウムで財政政策を語るのは、異例だ。
しかし、欧州経済は「緊縮疲れ」が顕著。欧州債務危機の反動で採られた財政均衡政策が著しい需要収縮を招く結果になっている。
EUの財政赤字には「GDPの3%を超えてはならない」とのタガがはめられている。しかし「特別の場合を除き」との条件つきだ。柔軟に解釈できる余地を残している。
そこでドラギ氏は「柔軟な」な財政政策が望ましいと述べたのだ。
これまで財政規律の必要性を訴えてきたECBによる「緊縮策への決別宣言」ともいえる
そのうえで、ECBとしても、「やり過ぎる(too much)リスクより、やらな過ぎる(too little)のリスク」を考慮せざるを得ない。それほどに、欧州経済の需要不足は深刻、との厳しい見方を示した。


そこで、ECBとしては、マイナス金利やTLTRO(新型資金供給オペ)など6月の理事会で発表した一連の追加緩和の効果を見極めたうえで、「もっとやる用意はある」との表現で「更なる追加緩和」の可能性を示唆した。6月に「検討中」と語ったABS(資産担保債券)購入による変形量的緩和策については「スピード感をもって検討が進んでいる」と語った。しかし、市場ではABS市場の規模が限定的であることから、その実現性には懐疑的。結局、日米型本格量的緩和を導入せざるを得ないのではないか、との観測が強まっているのだ。
早くも、欧州債券市場では、ドイツ10年債の利回りが1%の大台を割り込んでも更に下げ続け0.95%台をつけている。


主要国間の量的緩和のリレーのバトンは、米国から日本に受け継がれ、更に欧州もレースに参加の可能性が浮上してきた。
米国がばら撒いたマネーの回収にまわっても、過剰流動性が世界を徘徊し、貴金属など様々な投資媒体を循環物色する状況はまだ続きそうだ。

2014年