豊島逸夫の手帖

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中国60億元紙幣の教訓

2014年3月14日


今年1月6日本欄「2014年世界経済を見る勘所、リスクシナリオ総点検」に、「まず目が離せないのはチャイナリスクだ」と書いた。
特に「中国国民は改革の痛みと低成長の痛みに耐えられるのだろうか」と述べたとき、筆者の頭に鮮明な記憶として残っていたのが、写真の「60億元紙幣」だ。

1583_1.jpg60億元紙幣

中国の大手銀行アドバイザリーとして行内を動き回る過程で、上海分行内の「銀行博物館」(非公開)に案内されたとき目にした展示物である。下の丸窓 の中には、この紙幣の購買力を示す一握りの米。「1949年、汪兆銘の南京政府から蒋介石政権に移行したとき、紙幣乱発により米の値段が暴騰した」と説明 された。別のコーナーには「蝋人形館」があり、17世紀当時の上海の銀行店頭風景が再現されていた。「兌換各国金銀貨幣」という木製の看板に、両替商とし ての原点を見た。

1583_2.jpg17世紀上海の金銀両替商が銀行の原点だった

元々、各国の金銀貨幣を交換するビジネスをしていたのだ。だから、2010年の民間銀行に対する金業務解禁も、彼らにしてみれば「原点回帰」という意識なのだ。


実質的な国策銀行が、敢えて銀行博物館にこのような展示品を置くのは、自らへの戒めでもあろう。金融節度が失われ、無謀な融資が横行すれば、このよ うなハイパーインフレを引き起こすとの教訓である。逆に、かたくなに金融節度だけに固執すれば、信用収縮を招く。まさに、今、中国経済が直面している問題 だ。
銀行内のプロジェクトチームの一員として若手行員たちと親しくなり、強く印象に残った言葉が「三奴」である。カード、マイホーム、マイカーの奴隷となり、 物欲が満たされないと不満を格差問題に置き換え、政府に対する抗議行動を引き起こす。これまた、今の中国で顕在化している現象そのものだ。中国東部と西部 の「東西格差」、都市と農村の「城郷格差」、国営企業と私営企業の「業種格差」、そして「貧富格差」の「四大格差」と説明された。


その後、上海出張から戻り、ニューヨーク出張と続いたのだが、グローバルな視点で世界経済を俯瞰したときのイメージを帰国後書いてもらったのが、このイラストだ。

1583_3.jpg国際経済不均衡
(イラスト:香川かづあき 日経マネームック「豊島逸夫が語り尽くす、 金、為替、世界経済」より)


とにかく貯めこむ中国と、国債消化を中国・日本として自国の中央銀行(FRB)に依存する米国の対比である。国際経済不均衡の図だ。
中国の外貨準備は円換算で400兆円に迫ろうかという勢いで増えている。しかし、国として貯めこんだマネーの分配は、格差により、人民全体に行き渡らない。挙句に、その膨張したマネー運用の受け皿になりうる規模を持つ市場といえば米国債しかない。


いっぽう、人民は経済開放により、徐々に「三奴」化しつつある。
中国では、マイホーム保有の目途がないと、プロポーズも出来ない。そのために貯めたおカネはあるのに、目をつけていたマンションの価格が高騰してしまい、 結婚も当面おあずけ。資産運用の相談にのってくれ、とプロジェクトチームで親しくなった30代前後の行員から真剣な目で頼まれたこともあった。
足元で世界的なリスクオフを引き起こしているチャイナリスクの根源は、解放された人間の欲望に痛みを課しつつ抑制するプロセスにある。それだけに根が深い。
旧知の著名投資家ジムロジャーズ氏は「どんな大国でも最初は新興国。アップ&ダウンを繰り返しつつ荒っぽく成長してゆくものだ。」と常に語る。
しかし、いまダウンの過程にある中国がアップに転じるシナリオが見えない。


さーて、TGIF!
Thank God Its Friday!
やっと金曜日。週末はスキー場が待っている。ワクワク♪
また、ふきのとうの揚げたて天ぷら食べたい!ふきのとうの味噌も行けるね。南魚沼産の熱いご飯にのせて食べると、後は何もいらない。

2014年