豊島逸夫の手帖

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銅は急落、金は急騰の真相

2014年3月13日


上海発の銅価格急落が市場のチャイナリスクとして浮上してリスクオフを醸成している。そのリスク回避マネーが金に流入して金価格は、ウクライナと中国の不安共振現象により急騰中だ。
このマネーの流れを読むツボは、「銅は純粋な商品(コモディティー)だが、金は商品と通貨の二面性を持つ」というポイントである。
金は携帯・PCなどのハイテク部品としての不可欠の素材だが、一方で、各国政府は大量の金を外貨準備として保有している。しかし、銅を外貨準備として購入する国はない。


一方、銅と金は、投機的売買の影響を受ける点では共通点がある。
金はニューヨーク先物取引所のみならず上海先物取引所にも上場されている。上海にはもう一つ「上海黄金交易所」という取引所がある。元々、現物スポット市 場として開設されたのだが、現状ではT+5(ティー・プラス・ファイブ)という決済を5営業日後に延長する「延期取引」の出来高が急増している。
銅の世界的取引所はロンドンのLMEで、現物市場だ。しかし、世界の銅需要の4割前後を占める中国の影響が年々強まる中で、投機的に銅現物を輸出入する「裁定取引」が恒常化している。中国が輸入する銅のかなりの部分は「実需」ではなく「仮需」なのだ。
実需を根雪とすれば、仮需はドカ雪の新雪。
その「仮需」が「業界在庫」として積み上がったところで、中国の民間デフォルトリスクが顕在化して、表層雪崩を引き起こした。
今回は、銅を担保にした裁定取引に、銅価格急落に起因するカウンターパーティーリスク(取引の相手方の債務不履行リスク)が生じ、下げ幅が増幅されているのだ。


対して、金は2013年に中国が万年金需要第一国だったインドを遂に追い抜きトップに立った。銅市場と異なり、根雪の部分が圧倒的に大きい。「延期取引」も人気だが、需要のコアは現物の長期保有なのだ。
いっぽう、ニューヨークでは、金が金融商品として、リスクオフのとき「逃避先」として金先物や金ETFが買われる傾向がある。
ウクライナ緊迫も、銅価格への影響は限定的だが、金市場では「有事の金買い」を誘っている。足元のウクライナに起因する有事買いは、第二波だ。しかし、3 月4日日経コラムに詳述したが「有事の金にはご注意」である。一過性で、プロは利益確定売りの機会と捉えるケースが多い。個人がうっかり乗ると、ハシゴを 外される。仮に第三波まで生じても、いずれ強烈な「引き波」となり引いてゆく。
但し、今回のウクライナ情勢が米ロの中東での対決の構図と絡み、長期的な地政学的リスクとなると、

1582.jpg出典:日経マネームック「豊島逸夫が語り尽くす、金、為替、世界経済」


金価格の「下支え要因」となる可能性はある。米国量的緩和縮小という強力な下げ要因に対するブレーキの役割を果たすわけだ。逆にいえば、そのブレーキが外れたときに、金価格は再び下げに転じるであろう。


金市場のファンダメンタルズを冷静に分析すれば、チャイナリスクをはやして欧米の投機筋は買い向かっているが、当の世界最大の金需要国中国国内の金 現物需要は1300ドルを超えてから、買いが急減している。上海現地価格は、世界標準のロンドン現物価格に比し、ディスカウントになる現象も生じた。これ は、現地の供給過剰を示すインディケーターだ。文化的金選好度を背景にした長期保有の買い手たちは、徹底した「バーゲンハンター」(押し目買い)なのだ。
ニューヨーク先物主導の上げゆえ、ファンドの買いポジションが手じまわれるときに、金市場にも表層雪崩が起きるだろう。


さて、2013年12月20日本欄「1200ドル割れ」にこう書きました。
金は遂に1200ドル割り込み、1180ドル台へ。
プラチナも1310ドル台。
かねがね書いてきたように、緩和縮小による下げは、それほど深くない。本当の下げは2014年後半の、利上げが現実的な問題として議論されるようになるとき。そこで1100ドル割れもあり得る(直ぐに中国インドに買われるだろうが。)
今回の下げは、クリスマス前でNY市場の参加者が減りつつある状況で起こった。ゆえに、乱高下しようが、底は深くないと思う。なんせ、バーナンキ氏は、昨日の記者会見で、縮小とはいえ緩和状態が続くことを強調しているからだ。
長期投資家にとっては、安値を拾うチャンス。
私もまた金を買います(増す)。プラチナも。
ただ、円安でそれほど安くならないのだけどね。
円安でNYのドル建て金価格ほど派手な下げにはならない。
(引用終わり。)


さて、その時買った金を、今上がったところで、私は売ります。
プラチナは売らずホールドします。


なお、ムック発売と前後して、金価格上昇が話題になり始め、日経電子版も「特集、ニュースまとめ読み」で金特集を掲載しています。
色々な見方を比較する上で参考になるよ。フロント面の真ん中くらいにある。


それから、朝日新聞電子版にビットコインについてのインタビュー記事が載りました↓
http://www.asahi.com/articles/ASG3B36D3G3BULZU002.html
あるいは、「朝日新聞、ビットコイン、豊島逸夫」で検索すると出るよ。
タイトルは「そこにあるのは未来か虚像か、ビットコインを考える」
よくまとまった記事。見出しに座布団一枚!(笑)

2014年