豊島逸夫の手帖

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それでも根強い米利上げ論

2014年8月25日


振り返ってみれば、先週の相場の山は7月FOMC議事要旨公表であった。思わぬタカ派色にマーケットは動揺した。
その後に開催されたジャクソンホール中銀シンポでのイエレン講演は、タカ・ハト両派に配慮した「中立的」内容とされ、FOMC議事要旨を追認するにとどまった。市場もFOMC議事要旨公表直後に比し、「サプライズなし」の反応であった。
イエレン講演直後にも、ロックハート・アトランタ連銀総裁がメディア・インタビューで「私の見解は変わっていない。利上げ開始のタイミングは2015年半ばと見ている。私の見解は、最近の米国経済データ好転にもかかわらず(利上げに関して)慎重だ。この見解を変えるには、まだ数ヶ月(数の表現はseveral)、(経済本格回復の)証しを確認したい。」と述べている。
まさに、イエレン議長が言いたかったことを代弁している感がある。
しかし、同議長は、「FOMC内のまとめ役、かつ市場とのコミュニケートするスポークスマン」の立場を考慮して、「両論併記」の中立的スタンスをとったと思われる。
とはいえ、ジャクソンホール講演の原文を読み通すと、FRB議長就任直後の講演とは明らかにトーンの変化が見られる。


いまや、ウオール街のはやり言葉になった感さえあるslack(労働市場の余剰)についても、ほぼ断定的な「充分に活用されない労働力」という言い回しから、「労働力活性化の兆し」を示唆する表現をも併記して盛り込むようになった。
利上げについての言及も、「利上げを早まった場合の弊害」とほぼ同等の比重で「利上げが後手にまわった場合のリスク」についても併記するようになった。
超ハト派から「超」が抜けた印象が強い。


10月に量的緩和終了はもはや確定。次の問題は利上げ開始時期。これまでは、まだ「相当期間」あるとFOMC声明文では表現されてきた。とはいえ、その「相当期間」のカウントダウンが始まったことはたしかだろう。(ロックハート氏は、相当期間を数ヶ月と表現した)。テン(10)、ナイン(9)、エイト(8)と進むカウントダウンが先週はナイン程度に留まった。これがエイトに進むか否かは、次の雇用統計とFOMC(9月16-17日)の結果次第だ。このカウントダウンは、一挙にファイブ(5)、フォア(4)と急進する可能性も秘める。


市場の反応も、今週はまだ多くの市場参加者が夏季休暇モードなので、方向性を決めるには「定足数」に満たない状況だ。

例年、米国市場はレーバーデー(今年は9月1日)後に、本格的秋相場入りする。
昨年は、9月16、17日のFOMCで、「量的緩和縮小決定ほぼ確実」と見られていたが、当時のバーナンキFRB議長は軽くスル―するちゃぶ台返しを演じた。
そのFRB議長がイエレン氏になった今年の9月FOMC。果たして「利上げ開始時期」明示などのサプライズがあるのか否か。
昨年の記憶がまだ鮮明に残る市場は、身構えて待ち受けている。

2014年