豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. MH機撃墜が誘発する通貨安競争
Page1659

MH機撃墜が誘発する通貨安競争

2014年7月23日

ECB(欧州中央銀行)のマイナス金利導入でも下げ渋り1.35台は割り込まなかったユーロが、ウクライナ不安をキッカケに1.34台まで急落中だ。チャート的にも、ここをブレークすると更なるユーロ売りが誘発される可能性がある重要なポイントに接近している。逃避通貨として、円とドルが買われ、ユーロが売られた。対円でも136円台半ばまで下げてきている。

シカゴ通貨先物残高も、ユーロ売り残高が2013年5月以来の規模に増加してきた。

CFTC(米国先物取引委員会)発表のユーロ先物売買取組表

(件)

7月15日時点

7月8日時点

買い持ち

59,506

51,595

売り持ち

122,352

110,860

売り越し

62,846

59,265

(一件単位125,000ユーロ)

22日には、ウクライナ親ロ派が遺体・ブラックボックス引き渡しなど柔軟な態度を見せ始め、地政学的リスクは若干ながら後退した。しかし、ユーロは売られた。

その背景には、武器禁輸という制裁措置を巡る温度差がある。

強硬派の英国と対照的に、ロシアとの経済関係が強いドイツの姿勢は明らかに腰が引けている。更にフランスに至っては、既にロシアへ揚陸艦売却契約の実行を開始している。

更に、ここにきて、ECBも量的緩和導入やむなしとの議論のノイズ・レベルが上がり始めていることもユーロ売りに拍車を掛けている。

そもそも、ECBの追加緩和が実質的にユーロ安を狙った政策であることは明らかだ。

ところが、マイナス金利を導入したものの効果は限定的である。やはり量的緩和まで踏み込まなければ、持続的なユーロ安は望めない。

マクロ経済的にも、高失業率、低物価上昇、高止まりする債務残高という構造的問題をかかえる欧州経済の本格的テコ入れのためには、「導入もやむなし」との論調が増えている。フィナンシャルタイムズも社説で「ECBも量的緩和すべし」と断定的に論じた。

ドラギECB総裁は、6月追加緩和発表時点で、「これで終わったわけではない」と含みを残す発言をした。資産担保債券(ABS)購入による変形量的緩和が検討されていることも示唆した。しかし、ABS市場の規模は小さい。最終的には、国債を購入対象とする日米型本格的量的緩和でなければ、意味ある効果は期待薄だ。

ECBは量的緩和を法律的に禁止されているとの議論もあるが、禁止されているのは「中央銀行の国債購入による財政赤字ファイナンス」である。この点は記者会見でドラギ総裁が「物価安定というECBの使命を果たすうえで必要な限り、国債購入を通じた量的緩和を行うことに法律上の問題はない」と繰り返し明言している。(但し、

民間銀行の融資低迷が続く以上、銀行の融資債権を証券化したABSを購入対象にするのが適当、との議論なのだ。)

通貨投機筋は、この微妙な空気を読み、ウクライナ不安長期化、そして「いずれドラギ総裁も日米型量的緩和導入」を視野に入れユーロ売りに傾いている。

今後の欧州マクロ経済指標の出方が悪いと、一気に量的緩和論が囃されそうだ。

なお、ワイマール時代のハイパーインフレを経験しているドイツには、量的緩和の副作用としてのインフレ懸念が根強い。6月のEU圏消費者物価上昇率(年換算)も全体では0.5%だが,イタリアが0.28%に対し、ドイツは1.04%である。

とはいえ、ユーロ高の痛みを身を持って感じているのが民間部門である。ベルリンではドイツ連銀のインフレ・アレルギーが強く感じられるが、フランクフルトでは、経済界のユーロ安を望む声が強い。「日本は約20%の通貨切り下げをしたではないか」などの独財界要人発言も伝わってくる。

ボラティリティーが低い状態が続く外為市場で、マレーシア民間機撃墜事件が、通貨安競争の中でユーロ安の引き金を引く結果になる可能性が出ている。

さて、昨晩は、ワールド・ゴールド・カウンシル時代に私の右腕として15年以上働いた水木直人(写真中央)が米国移住とのことで、壮行会をやった。

同じく私のアシスタントとして20年以上やってくれた橋本厚子(写真中央)や、調査部長として私がリクルートして働いてくれた亀井幸一郎などが参加。さながらWGC同窓会みたいな楽しい雰囲気だった。


1659.jpg

いまのWGCのスタッフも全員、私がリクルートした連中なので、青山の事務所に寄ると、実家に帰ったような感じになる。

それと、青山1丁目の蕎麦屋「黒麦」が、蕎麦好きの私には懐かしい味。(昨日はステーキハウスだったけど。)当時、週に2-3回は黒麦で昼食だったな~。

水木は、奈良の旧家に育った(水木コレクションという有名な骨董コレクションが博物館に寄贈されているほど)のに、I love NYの米国ファン。ジャズ、ハンバーガー、ハードボイルド、米国東部の灯台巡りが趣味の域を超えた趣味。語り始めると止まらなくなる。私と全く異なる価値観を持つので、かえって長く一緒に働けたのだと思う。昨晩は、本人の希望に沿って、熟成肉のステーキハウスに行った。肩ロースとかヒレとか、味わい深い肉だったね。気楽な仲間内の席だし、銀座だったので、事務所が近い私が、一番カジュアルな格好だった。まるでゴルフ帰り(笑)。 それでもレストランに着く頃には外の蒸し暑さで汗びっしょりだったよ。

2014年