2014年3月6日
中国の民間債務不履行リスクが理財商品から社債市場にまで拡散してきた。
太陽光電池・パネルメーカーの上海超日太陽能科技が、3月7日に期限を迎える利息支払い分の4%程度しか資金調達出来ていないことを発表したのだ。
中国の社債市場規模は120兆円前後に達すると推定されており、本件は氷山の一角である。
もし政府救済なくデフォルトすれば、「オンショア=国内」では初の実例となる。
しかし、「オフショア=国外」では、中国の太陽光パネルメーカーの債務不履行は既に起こっていた。
供給過剰のこの業界では、大手が登記地をケイマン諸島に置いていたので、破たんしても清算をオフショアで済ませ、国内には持ち込まず、表面化しなかったのだ。サンテックやLDKが、その実例である。
理財商品破たんで顕在化した中国の巨額民間債務削減問題だが、シャドーバンクという「裏」の世界から、社債市場という「表」の世界まで波及してきた。
理財商品について言えば、国策銀行ともいえる大手行からの融資を受けられるのは、国営企業など一部に限られ、普通の民間企業は、シャドーバンクからの資金 調達に頼らざるを得ないことが根源的問題のひとつであった。地方融資平台(地方政府傘下にある、資金調達とデベロッパーの機能を果たす受け皿機関)も、地 方政府が地域経済成長率上昇を競う中で、安易な融資をシャドーバンクから受けていた。
そこで、理財商品を「表」の世界に移行させるには、地方債などの債券市場整備が必要なのだが、その市場も既に傷んでいたわけだ。
理財商品を、ハイイールドのジャンク債に衣替えとでもいえようか。
しかし、全人代で発表された目標経済成長率7.5%の達成と、民間累積債務削減を同時に達成する「ソフト・ランディング」の難度は、クワッドアクセル(4回転ジャンプ)級といえるだろう。
ところで、筆者は、2010年から中国大手銀行の外為貴金属セクター・アドバイザリーとして、支店での営業実態も色々見てきた。
上海市内の富裕層向け支店の開店セレモニーに招待されたときには、理財商品の販売現場も見てきた。
コンプライアンスより販売目標達成が重視され、金融当局の監視も投資商品のリスク開示(ディスクレ)までは及んでいなかった。
そこで理財商品を購入する個人投資家は、当該商品の組成がシャドーバンクという意識も極めて希薄という印象であった。「デフォルト」など「ありえないこと」で、大手銀行の信用の裏付けを当然のことと受けとめ、疑義を呈する例など見たこともなかった。
その人たちに、「あなたの購入した理財商品はシャドーバンクが組成したもので、当行は取り次ぎで販売しただけ。」と今更説明しても、納得するはずがなかろう。
頭を抱えているのは、投資家と、現場の支店長や行員たちだ。
最終的には、政府が救済する以外に、取り付け騒動を防ぐ手立てはない。
但し、モラルハザード(投資家の甘え)を招くので、利息の一部は未払いなど、痛みを体験させる必要もあろう。
中国版、事前調整型デフォルトは、クワッドジャンプの連続となりそうだ。
(支店内理財商品コーナー)
(支店スタッフたち)
(3月12日発売 日経マネームック「豊島逸夫が語り尽くす、金、為替、世界経済」より)
大手銀行上海分行内にある「銀行博物館」(非公開)に展示されていた、60億元紙幣(1949年発行)。
丸窓には一握りの米。この紙幣の購買力を示す。中国経済ハードランディングの実例だ。