豊島逸夫の手帖

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中国経済成長を映す中国金需要動向

2014年4月16日


中国の金需要量は、同国経済の実態を映すバロメーターだ。


金に対する文化的愛着が強く、経済成長が伸びれば「三種の神器」のごとく金が買われる。北京の最新モールの入り口にあるショップといえば、スターバックス、マクドナルド、そしてゴールドショップというほどだ。
その中国金需要は、この10年間で4倍近い急増を見せ、2013年には年間1000トンの大台を突破した。
しかし、2014年は、その増加ペースに頭打ち傾向が見られることが、調査機関のレポートに記された。詳細は本日日経朝刊商品面の記事で報道されている。
このレポートは、2017年までに中国金需要は年間1350トンに達するとの強気見通しなのだが、2014年に限っては、急速な上昇トレンドの中で「調整」の年としている。この後半の部分だけに市場は反応した。
15日の国際金市場では金価格が大幅に下落。一時1300ドルの大台を割り込んだのだ。
更に、同レポートが、「銅と同じように、金も影の銀行などにより、投機的売買、裁定取引に使われ、見かけの金輸入量を膨らませてきた」ことを詳細に説明したことも影響した。


実は、この事実を世界の主要経済メディアで最初に大々的に報じたのが日経であった。
本年1月7日の2面「真相深層」で「金1000トン、欧米から中国へ、利ザヤ稼ぎ狙う取引も影響」と報じているのだ。↓


「見逃せないのは貿易決済を装った利ザヤ稼ぎの影響だ。金は高価な割にかさばらず輸送費など間接費が低く、こうした投資に利用されやすい。
手口の一例はこうだ。中国本土の本社が香港支社から金を輸入するために信用状を発行する。香港支社は信用状を担保に香港の銀行からドル建てで融資を受け る。一方、中国本土の本社は同額の人民元を預金することで金利を稼ぐ。香港支社が支払うドル金利のほうが低いため、裁定取引でももうかる仕組みだ。
マーケットアナリストの豊島逸夫氏によると、こうした取引は2年前頃から目立ち始め、投資を介して輸入された金は13年に200トン前後にのぼるという。 「すぐに投資家や消費者の手元に渡らず業界在庫として蓄積してゆく」(豊島氏)。実需以上の量が中国に輸入されている可能性もある。」
としたうえで「経済成長の鈍化が過熱する投資に影を落とす可能性もある、と記事は結んでいる。
(今回発表されたレポートでは、同様の事例を挙げ、2013年末までの累計では1000トンに達するとの観測も紹介している。)


さて、この件は、ある材料が売り要因か買い要因かを決めるのは、多くの場合、マーケットがトレーダーたちの売買ポジション次第という事実を明解に示している。
3ヶ月前に日経が報道したときは、金価格は動かなかった。しかし、15日には市場が「急落」で反応した。この違いの背景が、投機的ポジション動向なのだ。
1月7日時点では、新年早々で、年末に大方の売買ポジションは手仕舞われていた。
しかし、4月15日現在では、「ウクライナ危機」による「有事の投機的金買い」ポジションが蓄積して、投機家たちは、いつ利益確定のために売り抜けるか。出口戦略のタイミングを虎視眈々と狙っていたのだ。
そこに、おあつらえ向きの中国関連材料が出て、「劇場のシンドローム」と呼ばれる現象の引き金となった。
満員の劇場で誰かが「火事だ!」(市場の場合は売りだ!)と叫ぶと、観客全員が狭い非常口に殺到することから、この名がついた。
売りが売りを呼ぶ負の連鎖のことである。
それを後講釈でもっともらしく説明することを生業とする人たちもいる。
しかし、市場最前線の現場感覚では、市場はポジションで動く、との認識が強い。


なお、長期的には、中国の金需要が上昇傾向を続けるであろうことは、本欄でも繰り返し述べてきた。経済が減速した2013年でさえ、中国・インドの 二か国で世界の金生産量の2/3を買い占めている。米国経済が今後、利上げに耐えられるほどに回復すれば、中国経済にも景気浮揚要因となろう。ゆえに、 2016年以降は、中国・インド主導の新たな金価格上昇局面が始まると予測し、昨年から「短期弱気、長期強気」説を書き続けている。

2014年