豊島逸夫の手帖

  1. TOP
  2. 豊島逸夫の手帖
  3. バックナンバー
  4. ウクライナ緊迫で虫歯治療費が上がるかも
Page1587

ウクライナ緊迫で虫歯治療費が上がるかも

2014年3月24日


貴金属の分野では、ロシアのクリミア編入により、米ロ冷戦との見方が浮上して、有事の金が買われるという局面もありました。しかし、プロの注目は、実は「金」ではなく「パラジウム」という貴金属の値上りにあります。


パラジウムは虫歯治療には欠かせないメタルで、ロシアが世界一の生産国なのです。
歯科で「銀歯」といわれる詰め物や被せ物は、「金銀パラジウム合金」という三つの貴金属の合金で作られます。
そして、この合金を使えば「保険適用」になるのです。保険点数は「告示価格」という半年に一度改正される価格を元に決められる仕組みになっています。
そのパラジウムの価格が、ウクライナ情勢を受けて上がってきています。ロシアが世界の生産の4割を占めてランクも一位だからです。
プーチンの横暴に欧米諸国が経済制裁を加えているので、ロシアが対抗措置としてパラジウムなどの「レアメタル」(希少金属)輸出を停止するのではないか、との憶測が流れているのです。
原油や天然ガスも同様にロシアが欧州向け供給をストップさせる事態が懸念されていますが、貴金属でも同じような事態が考えられるのですね。


ロシアのウクライナ介入→欧米の経済制裁→ロシアの反発→パラジウム輸出停止→パラジウム価格急騰→日本国内の「告示価格」上方改正→銀歯治療費値上り、というサイクルが懸念されているのです。
既に700ドル程度だったパラジウム国際価格が800ドル近くまで上がってきています。
歴史的にみても1996年までは200ドル以下だったパラジウム価格が、2000年には1000ドル以上と5倍以上に暴騰した歴史もあります。
パラジウムの市場は規模が小さいので、大量の投機マネーが入ると、とんでもなく上がることもあるのですね。
このときは、需要の主力の自動車排ガス清浄化触媒に加え、新たに携帯電話などの新規需要が開発されたことで、現物が世界的に不足したことが発端でした。
それをニューヨーク市場の先物投機家たちが囃したてて買い上げたことが価格上昇に拍車をかけました。
しかし、それほど価格が急に上がると、メーカーでもパラジウムより安い金属で代替できないか、という方法を研究するようになり、ニッケルが使われるようになりました。


相場は、投機筋が一斉に売りに出たことで、2002年には前の水準の200ドル前後まで暴落しています。
その後は、自動車排気ガス清浄化触媒として、特にガソリン車での使用が定着したので、700ドルまで上がってきたわけです。
ガソリン車は主として米国と中国で使われるので、自動車販売台数の伸びとともにパラジウム価格も上がってきたといえます。
なお、気になる、銀歯の治療費ですが、過去にも保険点数改正が価格上昇に追いつかない時期もありました。
その場合は、次の「告示価格」改正まで、歯医者さんが、損を被ることになります。保険診療の場合は、材料費が上がったからといって、勝手に治療費まで上げることは出来ませんからね。
なお、この「銀歯」は、金プラチナやセラミックスに比べ、細菌性プラークを吸着しやすいので、長い目で見ると、結局、虫歯や歯周病になりやすいことは事実です。
それでも、とにかく保険が効いて、安くあがることで使われているのです。


さて、3月26日丸の内丸善オアゾ本店での出版記念講演&サイン会は、整理券が全部配布済みとなり満席になりました。
既に、出版後、マーケットはウクライナやイエレン発言などで激動しているので、アップデートや、裏話などしたいと思います。

2014年