豊島逸夫の手帖

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パラジウム・バブルの死角

2014年7月25日

金銀プラチナに比し、足元で、最も底堅い値動きをみせているパラジウム。現物需給もひっ迫している。いまやパラジウムを使った部品の使い古しが業者間では引っ張りだこだ。リサイクルが貴重な供給源となっているからだ。

需給ファンダメンタルズに裏付けられた価格上昇なので、ジワジワとここまで価格水準を切り上げてきた。

そこに死角があるとすれば、未だ、ヘッジファンドなど投機筋が買い漁るという状況ではないことだろう。

今後、巨額の投機マネーがパラジウム市場に流入して、価格上昇ペースが「ジワリ」ではなく「急騰」あるいは「暴騰」し始めたときは、それこそ「やばい」市場環境になることは必至だ。

事実、2000年にはパラジウム価格が1000ドル以上に暴騰した直後300ドル台まで暴落した、という事例もある。

パラジウム価格先安を見込んで先物市場で空売りした投機筋が、意に反して価格が急騰したことで、慌てて買戻しに殺到したために生じた暴騰劇であった。いわゆるショート・スクイーズと呼ばれる現象だった。

その頃に比べると、今回のパラジウム価格上昇トレンドは、需給ひっ迫による現象ゆえ、2000年の再来はない。当時とは状況が異なる、という希望的観測もある。

しかし、世界的な低金利で運用難に陥っている過剰流動性マネー(もともとは中央銀行の量的緩和によりばら撒かれたマネーだが)が、パラジウムをもてあそび始めたら、市場規模が小さいパラジウムなどは、ひとたまりもない。投機マネーに翻弄されるは必至だ。しかも、2000年当時に比し、パラジウムへの投資手段は格段に増えている。

ふりかえってみれば、パラジウムが先物市場に上場されたときには、投機マネーによる価格乱高下を懸念する工業用ユーザーたちからの猛反対もあった。

ただ、上場後、パラジウムは地味な商品なので、たまたま投機筋の目にとまることもなかっただけの話である。

それが、ウクライナ情勢をキッカケに「パラジウムの最大産出国はロシアだ」との話が、パラジウム相場に火をつけたわけだ。

その「パラジウム火事」は、まだ「ボヤ」程度の段階なので、この程度の価格上昇で済んでいる。

しかし、本格的な火事となれば、価格は1000ドルを超え暴騰する可能性を秘める。

ここの見極めが個人投資家には重要な点だろう。

具体的なアドバイスとしては、パラジウム価格上昇ピッチが速まってきたら、あまり欲をかかずに売り払ってしまうのが賢明と思う。

私は10年くらい前から、セミナーなどで「日経が書いたら売り」などと語ってきたが、その背景には、NY先物市場で価格が暴れ始めたら、目立つので新聞記事になりやすい。しかし、それがニュースとして活字になる時点では、プロの投機家たちは、既に「出口」模索を始めているもの、という事情がある。決して、日経をけなすわけではなく、みずから「投機筋」としてNYで働いてきた体験から出た言葉なのだ。

個人投資家が日々接する日刊経済媒体は、日刊ゆえ、どうしても、前日のNY市場での値動きにフォーカスしがちだ。至極当然の話である。しかし、個人投資家の投資タイム・スパンは長期なのだ。

今日明日の値動きに惑わされるべきではない。

私のマスコミに出る相場コメントも、結局はトレンド・フォロー、つまり足元のトレンドを伝える記事の中で引用されることが多いので、価格が上昇中であれば、その上昇の要因説明の部分が活字になりがちだ。

しかし、そのような記事が出た当日に、セミナーで価格下落予測を披露したりすると、参加者は一様に当惑するものだ。

「あれ、豊島さん、今朝の日経のコメントで、価格上昇の話してましたよね」

それは、単に、価格上昇のワケを語っていただけのことで、価格予測は活字にならなかっただけなのだ。

2014年