豊島逸夫の手帖

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ギリシャ・中国発リスクオフ、金30ドル近く急騰

2014年12月10日

アテネ・上海発リスクオフが9日の世界市場を激しく揺らせた。
ギリシャ危機以来3回アテネを訪問、そして中国の銀行のアドバイザリーを務め銀行内部から市場を見てきた立場から、その真相を明らかにしたい。

まず、ギリシャ情勢。

市民の「緊縮疲れ」はピークに達し、冬を越せるのか、不安に感じている。エーゲ海といえども、冬のアテネには雪が降る。年金カットも給与カットも、これ以上続けば、教会の食物支給などに頼らざるを得ない。しかし、恥ずかしいから隣町の教会のお世話になる。極限に達した市民は、野党SYRIZAが掲げる「最低賃金50%増、暖房・電力供給保証」に惹かれる。野党への支持率は与党に迫る。
そこで、起死回生の一策として、サマラス首相は、大統領選挙前倒しによる新大統領の元での「時間稼ぎ」を狙った。しかし、必要な票数が足りない。その場合には、解散・総選挙となり、野党優勢となる。その野党はEUなどからのギリシャ救済資金返済を拒み、ユーロ離脱辞さずの構えだ。

最大の問題は、ギリシャの産業基盤も債務返済能力も脆弱。更に、歴史的な「都市国家」ゆえ、国への帰属意識が薄く、国債利回りに無頓着なことだ。
一方、救済役のドイツも、前回のギリシャ危機当時に比し、経済が減速中だ。
結局、ギリシャの累積債務減少のため、キプロス方式の預金封鎖も視野に入る。
とはいえ、今回は、欧州民間銀行のストレステストも実施され、ESM(欧州安定メカニズム)などのセーフティーネット資金は用意されている。
万が一、ギリシャのユーロ離脱があっても、金融にシステミック・リスクが拡散する可能性は低い。

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ギリシャ国会(筆者撮影)


次に、上海株急落に発するチャイナ・リスク顕在化の問題。

筆者は中国で個人投資家相手のセミナーをやってきたが、参加者殆どが初心者だ。金融リタラシーは無いに等しく、相場が上がってくれば、皆、買いに走る。今回のように急騰後、急落すれば、パニック売りに転じる。「投資は儲かるもの。下がれば、政府が救済してくれる」との期待感が根強い。そのような個人投資家が上海市場の主役だ。

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筆者が講演した中国個人投資家向けセミナーの様子


昨日の上海株急落は、短期融資の担保規定を厳格化して、低グレード債を担保として認めずとの動きが、そもそもの発火点であった。そこで、債券が売り込まれ、人民元は急落。株価に飛び火という負の連鎖が生じた。更に、政府の経済見通し引き下げの報も中国版ツイッタ―などで拡散した。

構造的な背景としては、巨額の理財商品デフォルトの先送り問題がある。債務不履行など「ありえない」というのが中国一般個人投資家の考えだ。そこに、とりつけ騒動を引き起さず、理財商品を「安楽死」させることは至難の業だ。理財商品はハイイールド債のようなものゆえ、債券市場のインフラ整備が必要だが、時間がかかる。

写真は2011年、中国大手商業銀行が、シャドーバンク組成の理財商品をキャンペーンで支店に売らせていた当時の支店店頭だ。セミナーに参加する投資家たちに、リスク開示もディスクレもなく、販売されていた。投資家たちは、当該商品は大手銀行組成ゆえ、救済されるものと勝手に思い込んでいた。

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中国の銀行支店内理財商品コーナー(筆者撮影)


その理財商品不安の中で、一斉に株式にマネーが動いたのだが、素人主導の相場は脆かった。
今回の上海株急落は、中国人投資家に、リスクの存在を知らしめる効果はあるだろう。高い授業料であったが、これも市場形成に避けられない一過程だ。
少なくとも、中国は、まだ政策の懐が深い。ゼロ金利ではないから利上げの余地を残し、非伝統的な量的緩和に頼る必要はない。いざとなれば、党からトップダウンで財政出動も可能だ。

総じて、ギリシャも中国も問題の根は深いので、2015年にかけて再噴出は避けられまい。今回はその第一幕といえる。
しかも、原油急落、FOMC利上げ、ロシア経済危機的状況という材料も複合要因となりリスクオフの市場環境を醸成している。
膨張したドル売りポジションの年内手仕舞いのタイミングを虎視眈耽と狙っているヘッジファンドにとっては、円買戻しの恰好の機会となった。
9日欧米市場で一時円が「安全通貨」として買われ117円台まで急騰したが、これはヘッジファンドの動きだ。直ぐに、119円台まで戻している。
クリスマス休暇を控えたポジション調整がしばらく続きそうだ。
しかし、市場を俯瞰すれば、米利上げという金融正常化に伴う痛みがリスクオフというカタチで顕在化しているに過ぎない。
原油安というワイルドカードは残るが、円安・日本株買いの動きは、新年相場入りとともに再開されよう。
日本にいると悲観論が目立つが、運用難の海外マネーにとっては、引き続き円売り・日本株買いセットへの運用収益依存度は高い。

そして、金市場には安全性を求めるマネーが殺到して1230ドル前後まで急騰。とはいえ実態はショートカバーラリー(空売りの買戻し)である。こういう突発事態のリスクオフになると、プラチナより金のほうが上がる。プラチナは景況感悪化で宝飾も自動車も売れなくなるとの憶測で、下げ圧力がかかる。金に連れて上がったものの、上昇幅は15ドル程度。それでも1250ドル台になった。
ただし、円高に振れているので、例によって、為替で相殺される面が強い。
金は来たるべき米利上げショックをいかに凌ぐかだね。かなり市場に織り込まれている気もするが。

2014年