豊島逸夫の手帖

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セクハラ野次、男の視点

※日経ヴェリタスには「逸's OK!」というコラムを持っていますが、ここではマーケット関連以外のトピックについても書いています。以下は2週間ほど前のヴェリタスに掲載されたコラムの元原稿です。


2014年8月5日

「君も女好きだな」

業界仲間の男性から、この一言を投げられたとき、私は、一瞬、返す言葉を失った。

場所は夜の歓楽街ではない。高層ビル内の極めて事務的なつくりの会議室だ。

業界内での打ち合わせで、訪問者は男性6名。対して、当方は女性社員5名という陣容だった。

当時、外資系機関のトップとして28名の社員をリクルートしたのだが、結果的に20名が女性であった。

そのような状況で発せられた一言だったのだ。

リクルートの過程ではエグゼキュティブ・サーチ(いわゆるヘッドハンター)など経由で多数の履歴書が寄せられ、200回人近く面談を重ねた。

それぞれの社内ポジションに要求される能力・適正などを客観的に吟味して選考を重ねた結果、たまたま女性が多くなっただけの話である。私自身が「御用繁多」でアップアップの状態だったので、なにより優秀な部下たちが欲しかった。

しかし、外から見ると、単に「女好きのトップ」と映ったのだろう。思わぬ一言に一瞬あっけにとられたが、次の瞬間には、「情けない」と思った。ダイバーシティーに関してこの程度の意識レベルの連中と同じ土俵で議論する気もおこらなかった。男が男に対して発するセクハラ発言の背景にある企業風土が問題と感じた。

組織をマネジメントする立場からは、優秀な女性が出産を契機に、労働市場から離脱してゆくことを、経営資源の損失と捉えた。同時に、他企業がこんな優秀な人材を出産をキッカケに放出してくれて、これは当方にとってチャンス!とも思った。


そんな私に、「女性の立場からは、声を上げねば、なにも変わらない」ことを教えてくれた人が、マネー誌で私担当になった女性編集者であった。当時、既に、ワ―ママたちのオピニオン・セッターとして、強力な支持層を持っていた。

脳波の波長が合った、とでもいうのだろうか。

独立した私についてきてくれて、Toshima & Associatesの副代表になった。


そんなおり、降って湧いたように起こった「都議会議員セクハラ発言」事件。

二児を寝かしつけ仕事モードにはいった副代表から、深夜に「怒りのメール」が送られてきた。

なにせ、日経DUALに「怒れ!30代。」という連載コラムを持つほどの行動派ゆえ、「参院議員会館で、本件について考えるワークショップ」を開催するところまで、話が進んでいた。

そこで、私は、「この議員の発言は、あまりに低次元。怒るだけでは、同じ土俵に立つことになるだけ。このような発言が醸成される背景を冷静に議論すべき」と返した。

当日は登壇して「男性を巻き込む」というテーマでグループ・ディスカッションのナビゲーター役も務めたとのこと。

取材に訪れた大手メディアの男性のコメントは「何となく入りづらい雰囲気かな、と思ったけれど、来て良かった。色々な人の意見が聞けた。」

こういうテーマだと、どうしても「女性が怒り、男性は来ないか小さくなっている」印象だが、やはり男性と一緒に問題の本質を考えるスタンスが重要と再確認した。


なお、職場では性別などお構いなしに厳しく社員に接してきた筆者ゆえ、あの女性議員がやじられた直後にみせた、弱弱しい笑いには、もどかしさを感じた。若くても都議会議員なのだから、もっと毅然とした態度で接してほしかった。あのような瞬間的な笑いの反応は、「都議会はこういう所なのだ」というような現状容認を連想させる。民間の女性のオピニオン・セッターに対しては、怒りを鎮め、冷静にと諭すが、怒らない議員に対しては、「君も所詮、都議会の垢がとれなくなったのか」と問いたくなる。

2014年