2014年11月4日
今の金価格はドル建てで1160-70ドル台まで下落していますが、円建てでは上がっています。全て為替次第の様相。そこで、黒田サプライズ緩和発表から現在に至るまでの三連休中の経過を3日分まとめて掲載します。
・10月31日 午後 執筆分
黒田日銀の先制攻撃、深夜のNYも驚く
急にけたたましくスマホが鳴りはじめた。
Are you sure? (本当かい?)
NYの日本株担当者たちから、現地深夜にもかかわらず緊急メール・電話ラッシュである。米量的緩和終了で火がついたドル高・円安。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の日本株運用配分の25%への引き上げも彼らは承知している。
「資金供給量を年間10兆~20兆円増やし、80兆円規模へ増額」
「ワオー」
「中長期国債買い入れペースも年約50兆円から約30兆円増やし、平均残存期間も7~10年程度に3年ほど延長」
「グレート!」
「ETFも年間保有3兆円へ、リートも900億円へ、それぞれ3倍へ増加」
「アンビリーバブル!!」
「賛成5、反対4」
「クロース!(僅差だね)」
昨晩まではアベノミクスが「政治とカネ」の問題で、政権安定基盤が揺れる状況の中、日本株の優先順位が下がり気味であった。それだけに今回は海外のホットマネーも出遅れ、まだ入り口を模索している状況だ。
ただ、11月の決算期を前に今年のパフォーマンスが悪いだけに「倍返し」の願ってもないチャンスである。円売り・日本株買いトレードが復活することは間違いあるまい。第二ラウンドがこれから始まる。
海外年金などのリアルマネーは内部の日本株運用計画書を書き易くなった。ジワリ動きが顕在化しそうな様相。ドル円相場もターゲットは再び115円に戻った。
日本は3連休にはいるが欧米勢は素直にモメンタム・トレードで乗ってきそうだ。本稿執筆中にも、急きょ来日と、決算を控えたNYの運用マネージャーからメールが入った。突発的相場に3連休は無い。
・11月2日 執筆分
「クロダさんからの贈り物」に沸く欧米市場
米量的緩和終了で生じた流動性の真空地帯を、日銀とGPIFが埋めてくれる。
連休中に急遽NYから来日したファンド幹部のつぶやきである。
9月にNYで会ったときに比し、明らかに日本株への期待感が上がっている。
ヘッジファンドにしてみれば、11月決算前に降って湧いたような、千載一遇の逆転のチャンス。ただでさえ、今年のパフォーマンスは悪い。加えて、カルパース(米国最大の年金基金)のヘッジファンド外しに、他の年金も追随の動きが見られ、危機感をいだいている。
そして運用難。米国株には割高感がつきまとい、欧州株はデフレ懸念で買いにくい。新興国株は国別選択が進むが、市場のパイは大きくない。その中で、日本株は「クロダ・プット」(景況感が悪化すれば日銀が追加緩和で下値を支えてくれるので、プット・オプション的効果が期待できる)というヘッジつきのようなもの、と見られている。
「例えて言えば、会食の払いを、イエレンさんに代わって、クロダさんが肩代わりしてくれるようなもの。BOJのおごりを、ありがたくいただくよ。」
元スイス銀行つながりの後輩ゆえ、こんなジョークで本音を語る。
「ジャパン・パッシング」(日本素通り)から、一夜にして、All eyes on Japan =世界の市場の目は日本に注がれる状況になったことを実感している。
今週後半には、急遽、NY出張となった。カルパース元CEOのもとで6年間働いたときに築いた年金関連ネットワークからの招聘だ。
日本株へのアロケーションを増やす兆しである。
いっぽうで、GPIFの外国株式運用大幅積み増しの情報を受け、欧米セル・サイドの「日本詣で」も増えそうだ。
更に、急速な円安が日本人個人投資家の外貨建て投資を促すとの見方もあり、「シティーの個人営業部門売却はフライング」との声さえ聞かれる。
もちろん、慎重な見方も多い。
これで消費増税乗り切るのか、との疑問。
特に、日銀の巨額国債購入を財政赤字の実質的ファイナンスと見て、財政規律の緩みが懸念されている。
更に、TPP、労働市場自由化などの肝心の「構造改革」が遅々として進まないとの印象も強く持たれている。
しかし、マネーの世界では「構造改革すべし」とか「財政規律守るべし」などのshould(。。。すべし)との議論より、パフォーマンスを上げねばならぬ、というmustのほうが重視される。
円相場に関しても、一気に112円まで円安が進行したが、利益確定の円買いを除き、ここから新規に安くなった円を買うという動きは殆ど見られない。
日米緩和度の差は格段に広がった。加えて、日本株買いは円売りヘッジつき。GPIFに横並びで外貨建て投資は増えそう。
量的緩和の副作用とされる財政規律の緩みが、「悪い円売り」の誘因ともなりかねない。
こうなると、少しでも円高に振れれば、新規に円売りポジションを作りたい、との本音が会話やメールからヒシヒシ伝わってくる。
110円水準が今や彼らのレンジの下限となり、115とか120などの数字が上限としてあげられる。
特に、ヘッジファンドが円売りポジションを戦術的(タクティカル)ではなく戦略的(ストラテジック)と位置づけ、短期の値幅取りではなく、中期に持ち続ける動きが見られる。
シカゴIMMの円売り投機ポジションも、これまでの「市場の常識」を超えて膨張する可能性がある。
こうなると、東京外為市場の「実需」要因やミセスワタナベの動きも、かすんでしまう。
2015年の世界的マネー関連予測では、ECB量的緩和の可能性が欧米では材料視されてきた。しかし、今や、日本株買いと円売りが、急浮上している。
アベノミクス2.0の大相場となりそうな「予感」だ。
・11月4日 執筆分
日本株・円頼みの欧米マネー
今週は、米国中間選挙、ECB理事会、米雇用統計と、重要イベントが目白押し。欧米株にもユーロにも不透明感が漂う。
そのなかで、唯一の例外が日本株買い・円売りのジャパン・トレードだ。
「クロダさんに逆らわず、フォローすれば、sure bet(確実な賭け)が見込める。」
急遽三連休中に来日したヘッジファンド・マネージャーたちの共通認識である。(2日付け本欄「クロダさんの贈り物、日本に集まる海外の視線」にて詳述。)
彼らと話していると、ヘッジファンドの「追い込まれた」苦境と、ジャパン・トレードへすがる気持ちヒシヒシと伝わってくる。
例えば、グローバル・マクロ系の代表的ヘッジファンドであるフォートレスは、まさに日本株買いと円売りで、10月のパフォーマンスをかろうじてプラスに収めることが出来た。
同ファンドのCIO(投資運用責任者)は、今年7月にNYで開催された機関投資家セミナーの檀上で、「日本株はTOPIX買い持ちを続ける(stay long)、 円は売りポジションを継続する(stay short)」と明言していた。
そのジャパン・トレードが10月最終週にはプラス3%貢献して、10月の全体パフォーマンスを1.8%のプラスに収めることが出来たという。
それでも、欧米メディアは、相次いで、「2014年ヘッジファンド苦戦。顧客解約増加」と報じている。
フォートレスも1-10月では、マイナス6.6%。
ソニー株売買で日本でも有名になったサード・ポイントも1-10月は、かろうじてプラス4.6%。10月に限ればマイナス1.3%だ。
そのような市場環境では、ジャパン・トレードも早いもの勝ちである。
まずは、東京市場不在の3日に、円売りの「急ぎばたらき」に動き、104円水準の攻防まで円を売り込んだ。
彼らのターゲットも、10月31日黒田サプライズ緩和発表直後に書いた本欄臨時更新では「115円」と書いたが、2日本欄では「115円から120円」とした。110円台から仕掛ける円売りゆえ、当然、出口のドル円目標水準も切り上がってくる。しかも、米国は緩和終了、日本は追加緩和という金融政策の構造要因に根差すので、円売りポジションを、戦略的に持ち続ける傾向も見られる。
いっぽうで、110円以下で円を売っていたトレーダーは、クロダさんのプレゼントをありがたくいただき、たなぼた利益確定の円買いに走る。
そこで短期的に円が上がれば(ドルが下がれば)、待ってましたとばかりに新規の円売り・ドル買いが入る。
ドル・インデックスも今年前半には80の大台を割り込んでいたが、3日には87台を突破してきた。ドル全面高ゆえ、ここでは90の大台突破が語られる。
そして、日本株に関しては、年金などのリアルマネーに、アンダーウエイトから引き上げの兆しが見られる。アベノミクス悲観論により運用配分が低かったのだが、10月31日を境に、状況は一変した。
国際分散の視点でも、米国株には割高感がつきまとい、欧州株はデフレ懸念で買いにくい。新興国株も、買える国と買えない国のまだら模様。その中で、日本株が一夜にして「ライジング・スター(希望の星)」に変身している。
このリアルマネーの日本株買いは、運用方針決定まで時間がかかるが、ボディーブローのように効いてくるだろう。
年金マネー動向については、今週後半に、NYから詳細をレポートする。
なお、連休中に、元祖ヘッジファンドのジム・ロジャーズ氏とチャットした。「日本株は買い、円は売り。なんせ、黒田さんがついているからね」と持ちかけたところ「君は正しい。絶対賛成だ!」とのレスが戻ってきた。彼は、FRBだろうがBOJだろうが量的緩和政策は、通貨価値の希薄化をもたらすと、常々反対論を唱えている。しかし、運用面では、中央銀行には逆らわず、したたかな面を見せる。
しかも、同氏がabsolutely(絶対)という形容詞を使うのは極めて珍しい。
9月にNYで会ったときにも、既に、日本株を買っていると語っていた。その彼も、近々来日するようだ。