豊島逸夫の手帖

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ロシア株、アップル時価総額の半分に縮小

2014年12月17日

今朝の日経3面に筆者コメントが載っていますので、以下はそれについての詳説です。↓

ロシア株の時価総額(米ドル換算)が、アップル1社の半分以下に落ち込んでしまった。
アップル社は6300億ドル余り。
いっぽう、世銀の統計では、2012年にロシア株の時価総額が8746億ドル。しかし、その後のロシア株・ルーブル暴落により、現状では3000億ドルを大きく割り込む水準と推定される。
その程度の規模の市場となると、ヘッジファンドにとっては「おいしい」標的となる。
季節的にも欧米市場はクリスマス休暇モードで連日、商いは薄いので値だけ飛びやすい地合いだ。16日の米国株式市場がダウ平均で100ドル以上下がり、その後200ドル以上急騰後、結局大引けでは再び100ドル以上の下落を演じたことが、象徴的である。
しかも、プーチンに残された選択肢は極めて限定的だ。
直接市場介入、資本規制、更なる利上げなどである。
それゆえ足元を見られる。
数少ない救いは、4000億ドルを超す外貨準備と、財政赤字対GDP比13%(2013)の低さだ。
しかし、外貨準備は徐々に減少しつつあり、更に制度的に介入に使えない部分もある。

いっぽう、国内インフレ率は9%を超え、国民の不満も鬱積中だ。ルーブル離れも目立つ。
四面楚歌となったプーチンが、例えばウクライナ隣国でロシア系住民の多いモルドバに侵攻するなど、愛国心高揚かつ国民の士気を高める奇策を打つ「地政学的リスク」もある。(「ウクライナ包囲網、ドネツクの次は沿ドニエストル」本欄4月8日参照)
欧米側は、プーチンのウクライナ妥協で経済制裁が緩和され、ロシア経済の負担を減じることが望ましい。しかし、その場合は、国内強硬派の批判が高まること必定だ。
結局、ロシア経済不安の今後は原油価格次第ということになりそうである。
輸出の32%を原油、21%を原油関連製品、14%を天然ガスに依存する構造は変わらないからだ。

かくして、ヘッジファンドは容赦なく「ロシア売り」をかける。
そこに死角はないのか。
ポイントは先物市場で、原油を保有していない投機家が大量に売っているということ。
ゆえに、いずれ臨界点を迎え、一斉に先物売り契約の買戻しが入る。
更に、商品の世界の常として、価格下落が長引けば、生産者は減産・新規開発見送りを強いられる。
OPECとシェールの米国との我慢比べも、長くは続けられない。
需要サイドにしても、新興国が原油なしでは成りゆかない。
いまは、縮小均衡の需給均衡点を模索している段階だ。そのプロセスでは、投機マネーに翻弄されるが、徐々に、均衡価格レンジに収れんしてゆく。筆者は長期的に、その水準を80ドルと見ている。
その間、プーチン対ヘッジファンド、OPEC対ヘッジファンドの対決の構図は続きそうだ。
ワイルドカードとしては、プーチンとOPECの連合、あるいは中国・ロシア接近加速のシナリオも絵空事とはいえない。

加えて、本日はFOMCの二日目。今後、米国量的緩和マネーとオイルマネーの同時引き揚げという、世界的マネー収縮の共振現象も市場のボラティリティーを高めるだろう。市場の第一線では、ドッドフランク法により大手投資銀行がトレーディング部門の縮小・閉鎖に動いているので、流動性が既に減少中だ。
故に、イエレン氏は「金融正常化のプロセスでは市場のボラティリティーが高まる」と明言しているほど。そこから生じるバブル対策として、大物のフィッシャーFRB副議長に金融機関体質強化を目的とする委員会のまとめ役を委嘱している。

かくして、銀行ストレステストなどでテールリスク対策は講じられつつある。しかし、市場の価格変動だけは、システム的に抑えることが難しい。投資家は今後もボラティリティーと付き合ってゆかねばならない。

2014年