豊島逸夫の手帖

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円売りラッシュ過熱、107円も視野に

2014年9月11日

「(9月16、17日の)FOMCは、近代ファイナンスの歴史に残るイベントになるかもしれない」
大仰なコメントだが、語る米人アナリストは至極真面目である。
それほどに、早期利上げ予測が日に日に強まり、ドル買いが過熱に近い状態に達している。
売られる通貨も、ユーロから火がつき、ユーロ売りが一巡すると、円が売りのターゲットになった。そして、スコットランド独立選挙懸念からポンド売りも加速中だ。

ドル高の背景となっているFOMCに関しては、もはや「英文解釈相場」ともいえるような様相だ。FOMC声明文で「量的緩和終了から利上げまでの時期」についての記述から「相当期間」の文言が抜けるとの観測。更に、イエレン氏が重視する労働市場の「たるみ」について、これまでより弱いトーンの形容詞・副詞が使われるのではないか、との予測。形容詞一つで相場が大きく振れることが予想される。
気になるのは、市場参加者の多くが「早期利上げ」の同方向に傾いていること。こうなると、もし、イエレン氏が市場予測の「これまでよりタカ派的なトーン」を表わさない場合、どうなるのか。
外為市場で急速に蓄積している円売りポジションは、一斉に買い手じまいに走ることになる。「劇場のシンドローム」といわれる現象で、満員の劇場で観客が狭い出口に一斉に殺到するような状況を指す。

その実例が2013年9月16、17日のFOMCで起こっている。筆者は、たまたま9月16日にNY証券取引所のフロアーにいたのだが、その時点では「テーパリング決定」予測が満ち溢れていた。しかし、身構えていた市場に、バーナンキ氏は肩透かしを食わせた。テーパリングは見送られたのだ。市場は大混乱。大量のストップロス注文が発動され、円は99円台から97円台まで急反発した。
その現場での記憶が生々しく残る筆者の視点では、「今年もか」との既視感が強い。そして、今年も9月16、17日に向けてNY出張に出ているところだ。
「近代ファイナンスの歴史に残る」か否かは別にして、マーケットで今年最大のイベントになる可能性は強い。

なお、今回のFOMCでは「出口戦略」の手法についても議論されるとみられる。膨張したFRBのバランスシートを、市場へのショックを最低限に抑えつつ、いかに減らしてゆくのか。「金融の神様」といわれたグリーンスパン元FRB議長でさえ10日のテレビインタビューで「誰もが経験したことがない事象であり、どうなるのか現時点では分かりかねる。」と述べている。更に、「FRBの民間銀行口座に滞留している巨額のマネーが、かりに解き放たれ市中に出回ったとき、どうなるのか。私は懸念している。」とも語っている。
今の市場は「壮大な実験」の試験管の中にあることを改めて感じた。

2014年