2014年1月14日
日本の3連休直前に発表された米雇用統計の大幅な悪化は、マーケットの景色を変えた。
外為市場では、ドル売りエネルギーが、円買いに向かっている。
株式・債券市場では、グレートローテーション(債券から株へのマネーフロー)に変化の兆しが見える。13日に発表されたゴールドマンサックスの「米株価 10%程度の価格調整」予測レポートも不安心理を刺激した。S&P500のPEが15.9に達し歴史的高水準にあることを指摘。過去にこの指標が17台を つけた時期は、ハイテクバブル期と2003-4年にかけての2回だけという。
割高感が強い米国株から、割安感があり13日は上昇した欧州株へのシフトも見られる。
商品市場では、弱気説が蔓延していた金価格が急反発中だ。
マーケットの不安感を示すVIXも、13日には11台から13台まで10%以上急騰している。
特に、米国10年債利回りに市場のセンチメントの変化が鮮明だ。
量的緩和縮小開始決定とともに、一時は3%を超え、3.25%から3.5%まで織り込まれつつあった。それが、雇用統計後は、2.96%から2.86%まで急落。
更に13日には2.82%まで続落している。
ここでは、雇用統計悪化の以下の影響が効いている。
1) 量的緩和縮小早期終了説の後退
2) 利上げへの転換条件とされる失業率6.5%が視野に入り、この指標を6.0%から5.5%にまで引き下げる案が浮上している。
3) そもそも、未曽有の量的緩和にも関わらず、FRBがベンチマークとするインフレ率は1.1%と目標とする2%を大きく下回っている。
(雇用統計悪化の影響については 日経コラム11日付け「米雇用統計サプライズ、浮上した4つの疑問」に詳述したのでこのブログの最後に採録しておく。)
いずれも、債券価格上昇要因(利回り下落要因)である。
マーケット参加者の多くが、債券から株へのグレートローテーションを見込んでいたので、逆を突かれた感じだ。一部のヘッジファンドは債券売り、株買いトレードの巻き戻しに走っている。
なお、13日には、雇用統計悪化後初めて、FOMCメンバーからの発言があった。
アトランタ連銀総裁ロックハート氏が「量的緩和縮小を慎重に支持。今は、QEの世界からポストQEへの移行期にある。当面、強い金融緩和は妥当。労働市場 はまだ健全ではないからだ。失業率6.5%の指標目標の妥当性も精査の必要がある。ディスインフレも問題だ。」と発言。基本的に緩和縮小を慎重に支持しつ つ、米国経済の脆弱性にも言及している。
なお、この米国長期金利低下と株価下落により円高が加速して102円台に突入した。
ここでも、ヘッジファンドの円売りポジションの巻き戻しが見られる。
しかし、年金基金などリアルマネーは、黒田日銀の追加緩和期待をテコに円売り継続の姿勢だ。
総じて、米国経済好転に関する懐疑論がジワリ懸念要因として意識され始めた。14日発表の米国小売売上統計に関しても、慎重な見方が目立つ。
米国株式市場は、先週のアルコアに始まる決算発表期に入る。米国主要企業の業績が、株との連動を強めているドル円相場の更なる円高の有無に影響を与えそうだ。
今後の展開だが、現状は「米雇用統計ショック」にマーケットが当惑している。毎月の振れの大きい雇用統計の一回の悪化で、グレートローテーションの逆流、ドル高からドル安(円高)への転換を論じるのは早計だ。
当惑した短期マネーは、巻き戻しに動くが、長期マネーは、米国企業業績そして米国マクロ指標の出方が確認できるまでは動くまい。
なお、金は1250ドル台、プラチナは1440ドル台。
ドルと逆の連動が顕著。国内は円高で上げも相殺。
三連休は、北近江の長浜に鴨鍋。
今年は寒かったので、特に、セリとネギが絶品だった。
鴨より野菜でお腹いっぱいになった感じ。
シャキシャキの食感と自然の甘さがたまらない。
写真の肉のほうの大皿に、丸いお団子があるけど、これは、軟骨や内臓。これが、またいい味出しているのだ。
この鴨鍋を東京で食べても、全く、味が違う。
あの北近江の寒い空気に触れながら、古い割烹旅館で、ワイワイいいながらつっつくからいいのだよね~~~
(千茂登 チモト というのだけどね)
来年は、近くの伊吹山のスキー場にも行ってみよう。
以下、参考原稿
米雇用サプライズ、浮上した4つの疑問 日経コラム1月11日付け原稿採録
10日発表の米雇用統計サプライズに関して論点をまとめてみた。
1.バーナンキFRB議長は、記者会見で量的緩和縮小の減少幅を月額100億ドルと明示した。(しかし、FOMC声明には明示されていなかった。)同時 に、記者会見では「今後のマクロ経済情報次第で、資産購入ペースの調整もあり得る」と明言していた。それでは、今回の米雇用統計の相当な悪化により、月額 100億ドルのペースが減ることはあるのか?これまでは、少なくとも年内には、量的緩和終了と想定されていたが、その終了時期が来年にまで延長され、実質 的な緩和状態が長期化する可能性が強まったのか?
2.FRBは、量的緩和終了から引き締め(利上げ)への転換条件をフォワード・ガイダンスで「失業率が6.5%を下回ること」と表現してきた。その失業率がいよいよ6.7%にまで下がってきた。では、来月仮に6.5%まで下がれば、「利上げ検討」が始まるのか?
3.そもそも、FRBがフォワード・ガイダンスの「目玉指標」として選んで使ってきた「失業率」は妥当な選択なのか?今回の失業率6.7%への低下は、労 働参加率63%から62.8%への低下によるところが大きい。失業率低下は経済改善を示す指標といえるのか?しかも、労働参加率の低下が、ベイビーブー マーのリタイア、求職意欲喪失など構造的要因であるとすれば、労働市場自体が縮小していることになる。
その結果、「見かけの完全雇用」に近い状況が早い時期に示現してしまう事態も考えられる。そうであれば、「失業率6.5%で利上げ検討開始」更には 「6.5%をおおきく(well past)下回っても、実質的なゼロ金利状態を継続する」との表現で明示されてきた6.5%を6.0%あるいは5.5%にまで引き下げる案が支配的となる のか?
4.失業率がここまで低下しても、FRBがベンチマークとするインフレ率が1.1%の低水準にとどまり「ディスインフレ」状況となっている。これは、失業 率の指標としての妥当性の問題なのか、或いは、ローレンス・サマーズ元財務長官の指摘する「需要減少」による米国経済のスタグネーション(停滞)による現 象なのか?
ここからは、各論点について、FRBの対応を吟味してみよう。
1. 基本的に雇用統計は月ごとの振れが大きい。事後的修正も頻繁である。ゆえに、この一回の下振れをもって、金融政策を修正するのは早計である、との見方が多い。特に、気候の厳冬効果の影響が強い。
しかし、今回の非農業部門新規雇用者数7.4万人は、事前予測19万7千人を大きく下回った。10月、11月分がプラス3万8千人上方修正されたものの、 過去3カ月平均は20万6千人から17万2千人に減少した。経済改善のベンチマークとされる20万人を下回る数字となっている。更に、過去6カ月平均も 18万6千人から17万人へ減少している。内容も広範囲にわたり悪い。これまで雇用の推進役とされたヘルスケアが1千人減。建設も1万6千人減である。
少なくとも、量的緩和早期終了説は後退したといえよう。
2. そもそもフォワード・ガイダンスの失業率6.5%という数字は、「自動的に利上げ決定の引き金となるものではない」と説明されてきた。引き締めへの転換の 必要十分条件ではなくthreshold(目途)とされている。従って、仮に来月6.5%が実現すれば、FOMCが本格的出口戦略の議論を始める号砲とは なろう。
3. 失業率を金融政策のベンチマークとして据えた以上、軽々しく変更すべきことではない。サッカーのゲーム中にゴールポストの位置を変えるようなものだ。変えれば市場は混乱する。
しかし、6.5%を6.0%あるいは、それ以下へ下方修正することは充分に考えられる。
4. サマーズ論は、金融政策より財政政策の重視が結論となっている。この議論は、FOMCでの議論の域を超えている。但し、インフレ率の下振れに関しては、イ エレン氏がFRB副議長として支えてきた量的緩和政策の是非を問う議論が展開される可能性はあろう。特に、新FOMCはタカ派が増えるので、「未曽有の量 的緩和後もディスインフレ」の議論が、FOMC内の亀裂を生むことも考えられよう。
総じて、イエレン次期FRB議長にとって、初仕事となる量的緩和逓減の舵取りが難しくなったことは間違いない。副議長に指名されたフィッシャー氏ほか2名との連携プレーの重要性も増してきた。