豊島逸夫の手帖

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欧米でも注目される日本の「ゴールド・ラッシュ」

2014年3月31日


日本国内では、直近の記録的外国人株売り越しの数字ばかりが報道されるが、ウォール街では「再参入」のタイミングを模索する兆しが出始めている。
振り返れば、ウクライナ緊迫と中国経済変調に起因するリスクオフの流れで日本株売りも加速した。マネーは米国債、円、金などへ一時逃避した。しかし、「次 のわらじを脱ぐ宿」のアテがあるのかといえば、米国株には「本格調整」の洗礼を浴びていないゆえの高値警戒感がつきまとう。欧州株には、ぶれるドラギ発言 に発する「もやもや感」が晴れない。そこで、新興国株でも買い直そうかとの動きや、或いは「逆張り派」のロシア株狙いなども見られるが、これとてメインス トリーム(主流)というには程遠い。
いっぽうで、リスクオフ・モードもピークを越し、円買いも一巡気味。金は売られ1300ドルの大台を割り込み、200日移動平均線を下回った。米国10年債利回りも、下げ渋りからジワリ上昇モードへ転換中だ。


では、グローバルな視点で、マネーは、どこへ行くのか。
そこで、一つの選択肢として、日本株が再浮上しつつある。
筆者が30年来付き合ってきたウォール街のベテランたちのネットワークから拾った生の声を以下にあげてみた。


記録的なガイジン売りで地合いが軽くなっている。Weak long(すぐ売ってしまう買い手)は振り落された。クロダ日銀は追加緩和という切り札を温存している。日本経済は消費税サバイバルゲームの渦中にある が、エコノミストの意見は割れている。見方が割れているときこそプロがリスクを取るタイミングだ。アベノミクスによる日本経済再生への懐疑論が目立つが、 成功シナリオも根強く残る。特に、「経済特区」は具体的で分かりやすい。少なくとも、社内でシナリオ分析による日本株買いも議論の対象になる。稟議はたて やすい。日本はウクライナ情勢による欧米対ロシアの対決の構図から物理的距離を置くことも指摘される。
総じて、これまでの日本株「モメンタム」買いから、じっくり「バリュー」買いへスタンスがシフトしつつあることは確かだ。


さて、先週は、消費税導入前の駆け込み「ジャパン・ゴールド・ラッシュ」が欧米のメディアでも注目されたので、取材も多かった。
そこで、特に、筆者の発言で引用されたのは、アベノミクスとの関連の一節であった。


例えば、3月27日のフィナンシャル・タイムズ紙は「増税前に日本の金買いラッシュ」と題する記事を載せたが、そこで、引用されたのは、増税前の駆け込み的な短期的見方ではなく、筆者のアベノミクスとの関連コメントであった。
国際金市場で金が売られているときに、日本だけがなぜ金を買うのか。それは「アベノミクスの失敗に備えたヘッジ的な動き」にあると読みである。
Investors are being drawn to the metal not just because of higher taxes, said Itsuo Toshima, an adviser to pension funds."Slowly and steadily, people are preparing for the worst, which is the failure of Abenomics."


"To protect the value of wealth, gold comes into pay as a inflation hedge, and if the economy goes back to deflationary circumstances then,again, money seeking safe havens would flow into gold."


取材でも、金関連より、アベノミクスの今後に関する質問が多かった。記事も「消費税をサバイバルできるか、エコノミストたちの意見は割れている」としている。
(なお、記事中で、筆者が「年金基金アドバイザリー」とされているのは、米国最大の年金基金カルパースの元CEOのもとで6年働いたときの名残だ。)
この記事を読んだ欧米の友人たちから、いろいろ質問メールが飛んできたが、「どのように割れているのか」もっと詳しく知りたい、というものが多かった。要 は、ヘッジの動きということは、メインシナリオはポジティブなのであろう、というわけだ。そこに、日本株買いの理論武装を試みるアナリスト・ファンドマ ネージャーたちの本音を垣間見た。
マーケットは次の一手を模索している。そのメニューの上のほうに日本株があることを実感している。

2014年