豊島逸夫の手帖

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アベノミクス再評価を試みる欧米マネー

2014年4月21日


イースターは欧米市場関係者とゆっくり語る時期だ。
話題は当然の如く「アベノミクスと日本株」に集中する。
そこで筆者が痛烈に感じることは内外温度差だ。
国内では、いまや論調が総悲観に近い。
「ガイジン・マネーは日本を去った。ジャパン・パッシングだ。」
しかし、欧米では、アベノミクス・日本株再評価論が逆に目立ち始めた。総悲観ではなく、悲観、楽観が真っ二つに割れている。
年初から時系列的に見ると、まず日本株期待、それが萎み、3月に「陰の極」に達した。そしてイースター休暇を迎え、相場から距離を置き、休暇先のリゾート で改めて俯瞰すると、「日本株市場がガラガラにすいている」ことに気付く。市場ががら空きということはプロの本能を刺激する。友人でヘッジファンドの元祖 ジム・ロジャーズ氏は、常に「私はcrowded=混みあっている市場は嫌いだ。だから米国からシンガポールに移住して娘を中国人学校に通わせているほど 一家で新興国市場の未来に賭けている。しかし、ここ数年は、新興国株をショート(売り)している。理由は、混みすぎているからだ。」
彼は、日本株も混みすぎている時期にいち早く見切り売った。
このようなプロの視点から見ると、weak long(弱い買い手)が振り落され、筋金入りの日本株保有家が残ったガラガラの日本株市場は本能をくすぐるのだ。
日本人投資家は個人も機関投資家も「ラッシュアワーの電車」に乗ることに安心感を覚え、「ガラガラの電車」に乗ると不安感に駆られる。横並び意識の強い民族の特性であろう。


海外の機関投資家たちと話して感じることだが、ホットマネーは日本株売買フィーバーが一巡して、今は次の一手の焦点が定まらない時期にある。米国株 はIT株不安、欧州株には「緊縮疲れ」、新興国株には選挙が構造改革を遅れされるリスクがつきまとう。しかし、アロケーション(資産配分)は各市場の相対 評価で決まるから、現状では日本株も含め「弱さ比べ」という基準が支配する。ホットマネーは世界を回遊するが、日本を離れ浮遊しても、今後の運用先として は冷静に日本株への目配りは続けている。特に、地政学的な視点で日本をウクライナから最も遠い市場として見直す発想は、日本に居ては分からない欧米流の感 覚であろう。
ロシア株やギリシャ国債を買い漁るホットマネーからみれば、ジャパン・リスクの切迫感は相対的に薄い。


次に、リアルマネーつまり年金基金や政府系ファンドなどは、元々日本株のアロケーションは低い。個人プレーは許されず、コンセンサスで動く世界なので、アベノミクスと日本株に関しても、シナリオ分析で正当化できなければ、動かないし動けない。
常にポジティブシナリオとネガティブシナリオを天秤にかけて意思決定をするのだが、足元では、世界のどの市場でも、ネガティブシナリオのウエイト(優先順位の重さ)が高まっていることが彼らには悩ましい。結局、「弱さ比べ」とならざるをえない。
その中で、日本株のベースシナリオであるアベノミクスは、彼らにはネガティブ要因とともにポジティブ要因も併記しやすい状況にある。特に「力づくでも GPIFの運用を変える」動きや、外人が住む都心の区に重点を置く特区戦略などは、彼ら自身が肌で感じ、結果が分かりやすい。インフレ率にしても、欧米で はイエレン氏の言葉を借りれば「物価上昇より物価停滞のほうが懸念要因」であるから、日本の「消費者物価ジワリ上昇、インフレ懸念」は経済活性化の兆しと 映る。賃上げのニュースも、活字となり世界に流れると、「隣りの芝生は青い」という欧米格言のごとく、実態を知る当事国内より、海外でのインパクトのほう が明らかに強い。デフレ脱却の期待感を醸成していることは、間違いない。
ドル円の相場観にしても、短期では意見が割れるが、中長期では圧倒的に「円安派」が多い。
その結果、リアルマネーに関しては、少なくとも、運用メニューの上のほうに日本株が残っている。日本国内に流れる「ガイジンマネーの日本株買い終焉」などというニュアンスは感じられない。


なお、メディアの論調もアベノミクス叩きの反動であろうか。見直し論が増えている。
ウォールストリートジャーナル紙は「日本再生の決意を疑うことなかれ」と題する記事を4月18日に載せた。悲観論がoverdone行き過ぎと論じて、前 回のアベノミクスラリーに乗り遅れた人たちには、参入の機会かもしれないと結んでいる。更に、4月16日にも「Yes, Abenomics is working アベノミクスに効果あり」との記事が出ている。
フィナンシャルタイムズ紙には「懐疑派は日本の政策変化を過小評価している」との記事が4月14日に載った。欧州の視点では、量的緩和をためらうECBドラギ総裁より、「必要となれば躊躇せず」と断言する黒田日銀総裁を「過小評価」できない、というわけだ。
このような欧米メディアの論調に接するたびに、内外の温度差を感じざるを得ない。


さて、週末の土曜日は長野市と松本市でセミナーのダブルヘッダー(同日2回)。朝の長野新幹線に飛び乗り、帰りは特急あずさで新宿に戻ったときは夜 遅くでした。長野新幹線は大宮と上田だけ止まって長野直行で1時間20分の最新車輛。長野市から松本市の間のJR線は、日本車窓3景に選ばれた雄大な景 色、松本は松本城が桜満開。自称そば評論家としては蕎麦もうまかったな。あずさに乗るのも久し振りだった。セミナーにはブログ読者も来ていて、「毎日読ん でますよ」と言われると励みになるよね~長野市と松本市では地域性の違いも感じられましたね。長野市のほうがおとなしくて慎重な感じかな。松本市のほうは 交通の要所ということもあるのだろうけど、積極的にリスクをとりにゆくように感じられました。勿論個人により単純に一般化はできないけどね。3月だった ら、松本で一泊して八方尾根でスキーやって帰るところだった(笑)。

2014年