豊島逸夫の手帖

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6つの複合要因の共振による円高

2014年4月9日


4日の米雇用統計発表直後に104円10銭台をつけてから、8日の欧米市場で101円60銭台を瞬間的に割り込むまで、3営業日で2円50銭もの円高が進行した。


この円買いドル安の素地は3月31日のシカゴでのイエレン講演で醸成されていた。初の記者会見で「量的緩和終了から利上げまで6ヶ月くらい」と口を 滑らせたことに発する市場の当惑を払拭するかのような強いハト派コメントが次々に語られた。「労働市場の需給の緩み(slack)は厳然と残る。従って、 超金融緩和継続というFRBの仕事はまだ残っている」との論旨であった。
そして迎えた4日の雇用統計は、非農業部門新規雇用者増が事前予測を若干下回る19万2千人と「グッド=良いが、グレート=素晴らしい数字とはいえない」結果となった。
イエレンFRB議長がシカゴの講演で実名入りで本人の声まで紹介した「長期失業者」「賃金カットされた人」「もっと働きたいのにパートタイムに甘んじてい る人」のいずれも、状況に顕著な改善は見られなかった。4日のイエレン講演で詳細に説明された労働市場のslack(需給の緩み)が改めて確認され、市場 には「超金融緩和継続期待モード」が強まり、まず債券市場で米国債が買われ、ドル金利が下落。これが、外為市場でドル売りを誘い、104円10銭台から 103円前半まで円高が進行した。
そして週末には、ウクライナ東部ドネツクでの親ロ派による「共和国宣言」など地政学的リスクが再燃。逃避通貨としての円買いが円高に拍車をかけた。


更に、8日には財務省発表の2月の国際収支速報で、経常収支が5ヶ月ぶりの黒字(6127億円)となった。これまで「構造的円安構造」とされた経常赤字という要因が揺らぎ、「所得収支増」は円高時代の記憶をよみがえらせた。
同日注目された黒田日銀総裁初のライブ記者会見では、市場が期待した「追加緩和」が完全に否定され、失望感から円売り投機筋の見切り(円買戻し、ドル売り戻し)が生じた。
この傾向は8日の欧米市場で加速。102円の大台を割り込み、101円台後半まで円高が進行したわけだ。


総じて、イエレン緩和継続、米雇用統計、ウクライナ不安再燃、経常収支黒字、日米株価の不透明感、そして黒田「需給ギャップゼロ」発言と6つの要因が共振した結果の円高といえる。複合的に要因が絡むので、急速な円安への回帰は遠のいた感が強い。
この円高トレンドをくつがえすには、6つの複合要因を凌ぐマグニチュードを持つ複数の円売り要因が必要だ。
ドル円売買シェアが拡大中のニューヨーク外為市場では、円売りドル買いポジションが巻き戻されている。この動きが加速すると100円の大台チャレンジも視野に入ってくるだろう。

1597_1.jpg今、米国でベストセラーのFlash Boys


読み中。高頻度取引について書いて、話題沸騰の書。この問題については、今朝の日経社説でも書かれている。

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昨晩、日経CNBCからネット配信された「マーケットのツボ」。会議室のテレビカメラとホワイトボードで生中継。台本なしの本音ぶっちゃけ。ニコ動 でも同時配信されたので、モニター画面への書き込みが面白かったよ(笑)。「なんだ、このオヤジ」みたいのから、最後には「ムック買います」というのまで 実に様々でネット特有のinteractiveで楽しめた。

2014年